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<妹姫6話>黒龍の襲撃と学園のもう一つの姿




「城の魔力源を全てこっちによこせ!」

 赤髪を後ろで一つに束ね、後ろに流した女が叫んだ。
 その女の声は低く、胸は平たい。眼光は敵を射抜くように鋭いが、整った顔形をしていた。
 野性的な美貌と男性的な厳しさを兼ね備えた女で、レイジが現れるまでは、密かに姫たちの人気を集めていた。

「マカデミア教官、あの、今魔力大砲と魔力供給管を調整していますが、少々時間がかかるかと……」
「はやくしろ! もう敵はすぐそこまで来ている。手遅れになるぞ!」
「は、はい!」

 怒鳴りつけられた生徒は、慌てて城の中へと駆けこんでいく。
 マカデミアの手元には、彼女の身長ほどの巨大な大砲があった。城壁に古来から備え付けられたものだ。黒い石造りで、外見だけでその威力がうかがい知れる。
 少しずつ充填されつつあるその大砲を指でこつこつと叩きながら、彼女は城壁の上部分、砦に集まった生徒たち一隊に怒鳴る。

「くっ……このままでは間に合わん! 他の戦力……レイジ閣下の帰りはまだか!」
「すみません、まだダンジョンの探索中とのことです……!」
「ったく、どこで油を打ってんだ閣下殿はっ!」

(皇族の長男として訓練を受けてきた彼以外、誰が龍に敵うというのか)
 歯ぎしりしていると、悲鳴のような声が聞こえた。

「先生! もうすぐそこに、ドラゴンが!」

 見張り塔からだった。覚悟を決める余裕もなく――
 翼を広げ、それは高い城壁の上を悠々と飛んできた。
 全身、漆黒の鱗に包まれた黒龍だった。手足は小さいが、広げた翼は体長の2倍近くある。その影はマカデミアや生徒たち全員を飲み込んだ。
 黒龍は空中から、ゆっくりと彼女たちにその目を向けていた。マカデミアは思わず一歩退いてしまう。
(勝てるのか……あのような太古の魔物に)
 圧倒されていると、そこに一人の生徒が叫ぶ。

「先生、大砲の準備が完了しました!」
「よ、よし! 照準を合わせろ!」
「はい!」

 歯車の回る音が鳴り響き、砲口が黒龍に向けられる。その間も、黒龍は宙に留まっている。マカデミアには、黒龍が余裕の佇まいで彼女たちを観察しているように見えた。
 とにかく攻撃のチャンスを逃すわけにはいかない。彼女は気合を入れて叫ぶ。

「|撃て《てぃ》っ!」

 腹の底に響く地響きのような衝撃とともに、紫色の炎の球が砲塔から吐き出される。
 それは轟音を立てながら風を切り、まっすぐ黒龍へと向かう。黒龍は逃げる暇もなく、数多くの炎の球に襲われた。
 咆哮が空に響く。灰色の煙が黒龍を覆い隠した。

「やったか!」

 思わずマカデミアは歓声をあげるが、煙が消えた時、彼女は呆然とすることになる。
 黒龍は怯むこともなく、悠然と砦に降り立っていた。衝撃で石造りの砦が振動する。

「まずい! みんな逃げろ!」
 
 一目散に砦を下りていく生徒たちの中、マカデミアも撤退しようとするが――

「きゃっ」

 一人の生徒がつまづいて転んでしまう。足をひねったらしく、その場から立ち上がれない。迫る黒龍を見て、尖ったエルフ耳が緊張でぴんと立っている。

「チコ! しっかりしろ! 回復して逃げろ!」
「ご、ごめんなさい! せ、先生は逃げてください!」

 泣きそうになりながらチコは叫ぶが、マカデミアはその場に踏みとどまっていた。
 彼女愛用の大剣を、まっすぐに構える。身の丈ほどもある、分厚い剣だった。
(勝てるとは思えないが……わたしが時間稼ぎをしなければ、生徒が)
 彼女は悠然と一歩一歩近づく龍に向かって駆け、大剣をふるう。力強い剣撃だったが……
(!?)
 岩でも叩き切れる一撃が、呆気なく弾かれる。
(この甲殻、硬い……! 物理が通らない!)
 しかも弾かれた隙に、龍は体重を乗せて腕を彼女に振り下ろしてくる。咄嗟に大剣でガードするも、彼女はふっとばされて大砲に背を激突させた。彼女のHPがほとんど削られる。

「くっ……なんだこの威力は! かはっ!」
「先生! そんな、ボクのせいで……!」

 チコは何もできず、ゆっくりと迫る龍を見上げるしかない。
 突然、雷属性の電撃が走る。それは黒龍の顔面に直撃し、黒龍は煩わしそうに発射元に顔を向ける。
(魔法攻撃は通る……わたしの出番はないってわけか)

「にしてもあの雷属性の魔法……サーニャか!」

 城壁の淵から下を見ると、そこに魔女姿の生徒たちが集まっていた。
 その中心で分厚い本を片手に持っているのは予想通りサーニャ。隣では彼女にヘーゼルが何か指南している。
 黒龍もサーニャたちに気付き、標的を彼女に変える。たまらずマカデミアは叫ぶ。

「逃げろ! 攻撃力が半端じゃない!」

 わらわらと駆けだす魔女たちに向かって、黒龍は滑降していく。マカデミアは次の手を打つべく、砦で足を引きづり準備をし始める。
(あの古代の装置を起動するときがくるとはな……)

***

 ダンジョンから戻り城の庭園に入った途端、驚いた。
 さっきの飛影は、ドラゴンだった。分厚い革で出来た感じの翼といい、鞭のような長い尻尾といい、俺の好きなゲーム「ハンマー&ソード」の中の黒龍そっくりだ。

「すっげえ! あれって絶対ミラボ――」
「レイジ様、喋ってないで逃げないと!」

 ノエルは俺の言葉をさえぎり、恐怖に引き攣った顔で俺の腕を引っ張る。だが、そこに声が飛んだ。

「ノエル! 敵に背を向けるつもりか! お前はそれでも姫騎士か!」

 聞き覚えのある凛々しい声が響く。それを聞きノエルははっと立ち止まった。
 黒龍の足元に、クリスティーユが堂々と立ちはだかっている。
(さすがは俺の見込んだ女騎士……!)
 その背後では、さっき会ったサーニャと教師のヘーゼルが身を寄せ合って分厚い本に目を通し、何かぶつぶつ唱えている。
(魔法の詠唱か……あの位置じゃ危ないんじゃ?)
 周囲で槍を構える他の姫騎士たちは恐れをなして、近づけない。一部の勇気のある姫たちは攻撃するが、呆気なく渾身の突きを弾き返されている。
(物理攻撃は通らないのか……?)

「お前もこっちに来て、騎士団の務めを果たせ! 己を犠牲にしても姫への忠誠を尽くすのが、姫騎士というものだろう!」
「で、でも――」

 ノエルが何か言おうとした瞬間、黒龍は耳をつんざく大音響で咆哮した。一瞬、耳が聞こえなくなるほどの音量で、その場にいる全員が耳を塞ぐ。
(やばい……あんな魔物、勝てる気がしない!)
 俺も危機感を感じ始めていたが、騎士団長はさすが格が違った。

「この臆病者が! わたしが手本を見せてやる!」

 クリスティーユが槍を引き構えると、その刃が光を帯び始める。

「|燦槍撃《グロリアス・スピア》!」

 眩しくて直視できないほどまで光輝いた槍が突かれると同時に、巨大な衝撃波が放たれる。
(お、いけるんじゃ……!)
 俺は黒龍にダメージをかなり与えられたんじゃないかと思ったが――

「なっ! 全然効いてないだと!? なぜだ!」

(やっぱり物理は通らない……)
 黒龍は動じずに首を回して周囲の姫騎士たちを見ている。
(何か、探してるのか……?)
 簡単に蹴散らせるはずなのにそうしないのは、何か理由があるように思える。
 首を回すのをやめた龍は、歯を食いしばるクリスティーユに向け溜めのモーションを取り、牙の隙間から紫色の火炎を放射した。クリスティーユは盾を構える。

「クリスティーユ先輩、逃げて!」

 ノエルが必死になって叫ぶが、逃げるには手遅れだ。しかし、炎がクリスティーユに届く直前、遮るように半透明の結界が形作られる。
(魔法か……?)
 よく見るとサーニャが片腕をあげている。彼女が魔力障壁を作り出しているらしかった。
(いや待てよ……サーニャのやつ、まだ何かやるつもりだ)
 彼女はまだ詠唱をやめていない。

「レイジ様、空が……」

 ノエルに言われて見上げると、いつの間にか灰色の雲が渦を巻いて立ち込めている。

「まさか……同時に二つの魔法を発動させてるのか?」
「きっとそうです! サーニャのスキルは「同時詠唱」なのです!」
 
 すげえ頭良さそうなスキルだな。
 黒龍も異変に気付いたのか、頭上を見上げた時だった。
 空気を切り裂いて、稲妻が枝分かれしながら龍へと迫る。その速度に、当然避けきれず――
 雷が落ちた瞬間、轟音が響き、ピカッとフラッシュを焚いたような光が辺りを満たす。
(たおせたんじゃね……?)
 激しい光にやられた目が回復したとき、龍はまだその場に立っていた。

「そんな、まだ倒れないなんておかしいです!」

 ノエルが言うのを、龍の怒りの咆哮が遮る。
(これは……勝てるのか!?)
 サーニャやヘーゼルは体力を削りきれなかったことにぎょっとした顔で龍を見上げている。そんな中、また聞きなれた声が聞こえた。

「マリ皇女、もっと速く走ってください!」
「走るのなんて、何年ぶりかしら! 足がもつれて!」

 見ると、相変わらず猫を抱えたウィルベルが一人の女の子を連れ、俺たちのいる方角、学園の外に向かって息を切らして走ってくる。銀髪ストレートの女の子だった。宝石が輝くティアラを頭に伸せ、姫らしく長いドレスは走るのに邪魔そうだ。
(ん?)
 ……どこかで見覚えのある顔だと思ったら、現世の幼馴染みにそっくりだった。顔つきはおとなしげ、目元のあたりまで一致している。違うのは髪の色だけ。
(嘘だろ……瓜二つじゃねえか)
 思わず目が離せないでいると、俺のもとに駈け寄ったウィルベルが荒い呼吸のまま喋る。

「もう学園の中でさえ安全でないと姫たちから聞きました! 学園に連れてきていた従者たちも既に帰国しており、戦力が足りません。ご主人様も一緒に逃げましょう!」
「ああ、そうしよう――って言いたかったけど……そういうわけにもいかなそうだ」

 俺の目線の先では、なぜか龍がこっちに顔を振り向けていた。
(一切攻撃してないのに何で狙われてるんだ?)
 奴の瞳には……俺とマリ皇女、どちらが映っているのか。とにかく、やつはこれまで、ずっとどちらかを探していたようにしか思えない。
 きっと何か理由があるんだろうが、今考えるべきことではない。
 既に覚悟が決まっていた。ひとまず幼馴染みそっくりの子を、守らなければならない。

「あの飛行能力……外はかえって危ない。城の中に逃げ込もう。こっちに」
「で、でも今城から出てきたばかりなのに――」
「はやく!」

 ここまでの観察で、龍は翼を使えば素早く動けるが、歩行がのろいことはわかっていた。
 攻撃力や防御力が高いが、素早さがない脳筋タイプの魔物だ。
 一番近い校舎に向かって走ると、思った通り小さい足でのしのしとついてくる。距離が空いていたこともあり、なんとか接近しないで済む。
 屋内に入り一息ついて、考える。
(これから、どうやって奴を倒せばいいんだ……?)
 少なくとも脚部や腹部には物理は通らない。俺はほとんど呪文を知らないから、魔法攻撃も行えない。
 考えうる方法としては、あるかわからない弱点を探すか、それとも……
 ウィルベルの胸の中から、にゃんこが飛び出す。
――僕が呪文を教える! だけど君の最強スペックでも、喋るスピードは他人と変わらない。強力な魔法の詠唱には時間がかかるよ。しかも何回魔法を放てば勝てるかわからない。龍はこの世界では最強クラスの魔物だ。奴を討伐しにいって、帰ってきたものはいないと聞く。
――ああ、そうかスミレがいたか。わかった、魔力源は……
――そこの皇女様は龍属性の魔力を持ってる。彼女を使って。龍には龍属性が一番効くからね。

「ご主人様、あの、はやく逃げないと……」

 俺の腕を掴むウィルベルの手は、震えている。

「大丈夫だよ、ウィルベル。でもどこに逃げれば――」

 突然、衝撃とともに一撃で壁の一部が崩壊した。石の塊が飛び散り、女子二人が悲鳴をあげる。
 空いた穴から、龍の巨大な瞳がこっちを覗き見ている。
(まずい……城の中もダメか!)

「とにかく逃げよう!」
「もう足が動きません……」
「皇女様、諦めてはいけません! あなたは国をささえるお人で……あ」

 何かに気が付いて、ウィルベルが手鏡を取り出す。

「こんな時に誰が……」
「お前がレイジ殿の従者か! レイジ閣下はいないのか!」
「今ここに……」

 龍が放った火炎放射の熱を背に感じながら逃げつつ、ウィルベルから手鏡を受け取る。
 赤髪ポニーテールの女が、鋭い目線で話しかけてくる。

「わたしはこの学園で教官をやっている者だ。いきなりだが中央校舎に向かってくれ、殿下。そこで決着をつけられるはずだ」
「お前のこと、信じていいのか?」
「正直わからん……一度も使ったことのない古代兵器を使う。だがそれ以外に方法がない」
「ご主人様、連絡橋を通れば中央校舎に行けます……そっちのほうが頑丈で安全なはずです!」
「わかった。急ぐぞ」

 背後で石造りの壁が崩壊する音を聞きながら、俺たちは連絡橋へと走る。
 魔法を詠唱している暇なんかない!

***

「おい……壁がないぞ」

 連絡橋は文字通り橋だった。姿が丸見えだ。危険すぎる。
 しかしもう遅かった。城を破壊しながらすぐそばまで来ていた龍が、俺たちを見つけ咆哮する。

「接近戦じゃ勝てない……走れ!」

 龍が腕で橋を攻撃し、足元に衝撃が走る。
(このままじゃ橋が落ちる……!)
 しかも長い首を活かして、一気に顔面を近づけてくる。攻撃をくらうか、橋ごと落ちるかのどちらか。時間の問題だった。
(なんとかしないと……)
 龍と目線が同じになって、ようやく気付く。
(そうだ………硬いのはあの甲殻。眼球になら物理が通る。ここからなら、攻撃できるはずだ!)

「二人とも逃げて。ここは俺が何とかする」
「ご主人様!?」

 俺は「そこそこ上質な剣」を鞘から引き抜く。
(今の俺はマックスレベルのLV150だ……剣の扱いがわからなくても、なんとかなるはず!)
 剣を構え、駆けだす。不思議と頭は冷静だった。

「そんな無茶苦茶な! ご主人様おやめください!」

 ウィルベルの悲痛な叫びを無視し、俺は正面突破を挑む。
 LVMAXの動きは常人にはとても真似の出来ないものだった。龍が振り下ろした腕をするりと回避し、龍の顔面向けて高く跳躍する。
 
「うおおお!」

 ゲームの主人公になった気分で雄叫びをあげる。龍の眼球に向け、剣を思い切り振り下ろす。
 攻撃は命中し、黒い血のようなものが噴き出す。龍は苦悶の咆哮をあげ、思い切り振り払うように頭をぶんまわした。
(あ……攻撃後のこと考えてなかった)
 滅茶苦茶なスピードで吹っ飛ばされ、連絡橋の下まで落下する。
 腕をついて立ち上がろうとするが、激痛が走る。

「いってええええええええええええええ!」

 地面についた方の腕が、肩のあたりから変な方向に曲がっている。骨が飛び出していて、血がみるみるうちに流れ出す。
(そんな……ゲームみたいに吹っ飛ばされるだけじゃないのか!?)
 もっとLVが低かったら、地面に叩き付けられた時点で即死だったのかもしれない。
 龍はその眼に深く突き刺さった「そこそこ上質な剣」をどこか遠くに吹っ飛ばしていた。俺の武器はなくなった。
 ウィルベルが橋の上から驚愕の表情で俺を見ている。

「ご主人様! う、腕が!」
「それよりお前は逃げろ! ……あのドラゴン、まだピンピンしてる!」

――はっきりした……狙いは君だ! こっちに向かってくるよ! 
 橋から器用に飛び降りた猫のスミレは、手鏡を口にくわえている。

「レイジ殿下! 準備ができた! 中央校舎の近くの城壁まで来てくれ!」
「きっとあそこです、ご主人様! 後ろの城壁に教官先生が!」

 振り返ると、城壁の上に赤い髪の女が堂々と仁王立ちしている。
 龍は再び俺に残ったほうの目を向け、一歩一歩地響きをたて歩いてくる。翼を使うほどの距離が空いていない。
(もうすぐ……!)

 半身を血まみれにしながら、気力を奮い立たせ、俺は城壁へと走る。
 その間、激しく視界がピントの合わないカメラのように揺らいでいた。出血しすぎたのだ。
 後ろからついている影を、俺はぼんやりと知覚していた。また攻撃してくるかと思いきや、そこに誰かの声が響く。女の勇ましい声だった。

「大砲、全門放火!」

(あれは……?)
 見ると、城壁に設置された大砲らしきものが全て、一斉に火を噴いていた。
 全弾が黒龍の身体へ命中する。黒龍はある程度ダメージを負っているらしく、悲鳴のような声で吠えている。

「とどめ! |撃龍槍《げきりゅうそう》、放て!」

 突然、目の前の城壁から巨大な棘だらけの禍々しい槍が暴力的なスピードで飛び出した。
 槍は黒龍の胸の甲殻を強引に破壊し、突き刺さる。黒い液体が噴き出す。黒龍は激痛に身を悶えさせる。
(撃退、したのか……?)
 もはやそれが信じられなかった。
 地面に倒れ伏せた龍は慌てて翼を広げ、空へと羽ばたく。
 城壁の向こう側へと、帰っていく……俺は安心して、がくりと膝をついた。身体に力が入らない。

***

 庭園の花に埋もれ、俺は仰向けに倒れていた。サーニャが呼び出した雲はなくなり、綺麗な青空が視界いっぱいに広がっている。
(やべ……身体から力、抜けてくんだけど)

「閣下、腕が欠損しているではないか……!」

 意識が朦朧とし、ウィルベルとマリの必死に呼びかける声が聞こえるなか、そんな低めの声が唐突に聞こえた。
(君は、近いうちに殺される)
 そんなことを言われた記憶が蘇り、ぼんやりと、自分の死を覚悟しているところだった。
 目を開けると、赤髪の大人の女が立っていた。女戦士といった感じの風貌をしている。生徒たちと違い、下はスカートでなく黒いズボンをはいている。

「レイシア、アイシア、急ぎ治療を頼む」
「はーい」
「了解でーす」

 彼女は背後に二人の大人の女を引き連れていた。二人とも、ナース服を着ている。足にぴったりした黒いパンストを履いていて、むちむちした太ももがなんともエロイ。
(死ぬ間際なのに、こんなこと考えてるなんて……俺、バカだろ)

 俺の傷ついた片腕に触れたその二人は、よく見ると全く同じ顔かたちをしていた。
 面白い耳の形も、全く同じ。まるでエルフみたいに、ぴんと上を向いた耳だ。
(幻覚でも見えてんのかな)
 二人は俺の腕を傷口にあて、呪文を唱える。

「「オールリカバリー!」」

 淡い緑色の光とともに、ぐちゅ、と何かが接着する音がした。
 なんとか首をひねって見ると、肩が元通り繋がっている。
(え……マジかよ。一瞬で治っちゃってんだけど!?)
 痛みも退きはじめていた。しかし、出血多量で今にも意識が飛びそうなのは変わらない。

「ご主人様、これで一命はとりとめましたね……よかった……!」
「ふあ……よかったのです。このまま霊が分離するかと思ったのです」
「しかし、騎士が見習うべき高潔な一騎打ちであった。尊敬するぞ」

 ウィルベルの他に、知っている声も二つ聞き取れた。姫たちが、俺の周りに集まっている模様。
 そこに、また赤髪の女が喋りかけてきた。

「まずは、感謝しよう……閣下、我らの要塞を守っていただいたこと、ありがたく思う」

 赤髪の女に頭を下げられた。俺がいなかったらこの学園は黒龍に破壊されていただろうから、当然のことだ。

「だが、もう少し身体を大切にしてくれ。御身体はいくらでも再生できても、絶命し、霊が肉体と分離してしまったら、二度とその身体で生き返れないことは心得ているはずだ。次期皇帝閣下が亡くなれば、この帝国は支えを失う。他国や、魔物の侵入にすぐ敗れ去ることだろう」
「いくらでも……再生できるのか?」
「どうした、不思議そうな顔をして。ああ、そう言えば閣下は道中幻属性魔法にかけられたとの話だったな。生徒たちから聞いているぞ」

 一つ質問しておこう、と彼女は言った。

「なぜ帝国の一点に、帝国の主要魔法戦力である姫たちが集結しているか、覚えているか? 学園が城塞の形をとっている理由を記憶しているか?」
「そんなの、知らねえよ……」
「そうか、では答えよう。覚悟してもらう必要があるからな。この学園は、確かに……こほん……王族繁栄のためにある。しかしもう一つの裏の役割は、帝国領内への魔物や他国の侵入を食い止める、最初にして最後の砦……軍事要塞だ」

(なんだそれ……キツイ展開だなぁ……)
 俺は、そう思ったのを最後に、意識を失った。
(つづく)







<妹姫5話>蔓触手3Pと特殊なスキル




 大量の蔓が所狭しとひしめく部屋。俺はさっそく蔓を操って楽しんでいた。

「や、やめてよぉっ! ぶらさげないでぇ!」
「やめて……レイジ様! アリスが嫌がってるじゃない!」

 アリスは全身を蔓に巻き付かれ、上下反対向きに宙にぶらさげられていた。
 抜け出そうともがいているが、余計に蔓が絡まっていく悪循環。
 蔓の締め付けで、彼女の胸のふくらみが際立っている。

「アリスって何カップ?」
「へ? そ、そんなこと男の子には教えないよっ!」
「教えてくれたら蔓、ほどいてやるよ」
「ほんとう!? 嘘じゃない?」
「ああ」
「レイジ様、意外とエッチな人なんだね……。い、Eカップ……です……」

 頬を染めて、恥ずかしそうに言うアリス。

「でも本当かどうか確かめないと意味なくね」
「え……そ、そんな!」
「ひとまず、リナは休憩しながらそこで見ててね」
「え……あんっ」

 俺の意思に従い、リナの足や腕にもぎっちりと蔓が巻き付き、逃げられないようベッドに束縛される。

「自分の魔力で出来た蔓に縛られるなんて……最悪だわ」
「さ、アリス。脱がすよ」
「え、え? きゃぁっ!」

 触手をうまく使って、アリスの服のリボンを解いていく。
 前をはだけさせると……真っ白なふくらみが、たゆんとまろびでた。リナも同情する視線でそれを見ていた。

「二人とも、見ないでよぉ……」
「うん、確かにEカップくらいありそう。リナよりちょっとおおきいな!」
「なによ……わたしをからかってるの!?」
「大丈夫、リナのおっぱいも綺麗だよ」
「……ばか。許さないんだから」

 リナは赤くなって、俺を睨んでくる。
 無視して、俺はさっそく両手のひらでアリスの乳を根本から、すくいあげるように揉んでみる。もちもちとした感触。

「アリスの胸も、柔らかくていい触り心地だな……」
「え、いやぁ……触らないで! んああ……!」

 ぶらさげられたまま、切なげな目線を送ってくる。
 アリスのふとももが、きゅっと内股になる。今頃女の子の部分から、愛液がじゅんと分泌され始めたところだろうか。

「はぁ……乳首、だめぇ……あん……」
「アリスが、あんなに変な声……出しちゃってる……」
「わ、わたし、こんなの知らないよぉ……んっ! 身体が、勝手に! ……んあぁ」

 ぴくぴくと乳首を立たせながら、なおも甘くよがり続ける。
 俺も我慢できなくなってきた。

「それじゃあ、そろそろアリスにもセックスを教えてあげよう」
「せっくす?」
「レイジ様、ダメ! あんな痛い思いするのは、わたしだけで十分よ!」
「そのせっくす、って、痛いの? レイジ様?」
「最初だけな。リナ、お前は後でもう一回可愛がってあげるから、友達の処女喪失、しっかり見とけよ」
「やめてぇ! レイジ様ぁ!」

 リナは懇願するが、アリスはこれから何が起こるのかわかっていない様子で、ただ怖々と、俺を見つめている。

「レイジ様、しょじょって、なに?」
「アリスが純潔な証だよ。今から俺に奪われるんだけどね」
「え……?」

 触手を操ってアリスの体を操り、空中でまんぐり返しの状態にしてしまう。めくれたスカートから、割れ目の部分が濡れた下着が俺の目の前にさらされる。
 アリスは頑張って抵抗しているが、蔓触手は彼女の太ももをしっかりホールドしている。

「や、やだぁ! こんなはしたない格好させないでっ!」
「へえ、アリスはオレンジ色か。可愛い下着じゃん」
「恥ずかしい……うぅ……」
「今脱がせてあげるからね」
「ひゃっ! だめだめ、見ないでぇ!」

 俺は念じて触手を操る。アリスのお尻から下着をするすると抜き去った。ふくらはぎのあたりにひっかけておく。
 触手でアリスの股をしっかり広げさせると、おまんこからアナルまで、女の子の大切なところが隈なくさらされる。ほんのり、いやらしい匂いが漂う。
 アリスの性器は、リナと同じく綺麗で色鮮やかな桃色。ただし形はリナと少し違った。
(女の子一人一人、違うんだな)

「ひゃうぅ……」

 アリスは恥ずかしすぎて言葉も発せないようで、ただ俺を泣きそうな瞳で見つめている。
 ヒクヒク震え、愛液を垂らしているおまんこを見ていると、ペニスがガチガチに固くなる。

「他にも色々やりたいけど、とりあえず子作りセックスしようか」
「こ、こづくり……ん、んあああああっ!?」

 一気に、ズドンとペニスをアリスの中にぶちこんだ。中ごろまではいったところで、さらに力をいれてペニスを押し込み、肉襞をぶちぶちと裂いていく。

「い、痛あああぁいっ! あ、あ、ああああ!」

 アリスの絶叫が、小屋の中にこだまする。
 一方、一番奥まで挿入した俺は、夢のような快感を感じていた。
(リナとちょっと違う感触……気持ちよすぎる……)
 ペニス全体を、ぬめるヒダヒダが締め付けてくるのだ。たまらない。
 俺は、まぶたを濡らし、性器から血を滲ませるアリスに、優しく声をかける。

「アリス、大丈夫だ。すぐ、このベッドが回復魔法を発動してくれる」
「ひぐ、ううぅ……ほんとうに……?」
「見てればわかる」
 
 俺の言葉通り、次第に青白い光が辺りを満たす。
 それが消えた時には、アリスの性器から流れる血がすっかり止まっていた。

「あれ……もう、痛くない……?」
「じゃあ、さっそく絆を深めようぜ」
「え……うあああっ!?」

 俺はずちゅっとアリスの中をかきまわした。またすぐに射精しそうになるのをぐっとこらえる。

「あん、あん……え、なにこの感覚……はあぁ!」

 アリスは甘く喘ぎ始める。腰を振りまくりたいのを抑えて、言葉をかける。

「どう? アリスは何か感じてる?」
「な、なにこれ……? 体の中で、動いてる……わたし、こんな感覚、初めて……んあぁ!」

 再び腰を揺すると、アリスはきゅっと柔らかい膣を締めてきた。摩擦が強まって、素晴らしい心地。

「アリスの中、俺の動きに反応してきゅんきゅんしてるな。もう気持ちよくなってきたのかな?」
「こ、これ……んああ! そ、そんなの、わかんないよぉっ!」
「それならたっぷり教えてやるよ。男に貫かれる快感をね!」
「え、わ、ひゃあうぅ!」

 アリスの腹をがっしり掴んで、がしがしと勢いよく腰を振る。振れば振るほどペニスを誘い込むように吸い付いてくるおまんこは、絶品だった。

「やあぁっ! わたし、おかしくなってるよぉっ!? 奥までジンジン響くぅっ!」
「それが、男にハメられる快感なんだぜ」
「はめ、られる……あううぅっ?」

 俺は腰振りを続けながら触手を操り、アリスの胸をきゅっとしぼってみたり、口の中を蹂躙したりしてみる。

「っんぷ! むぐ、んんんっ……らめっ、口の中いじらないれっ変になるぅっ! おっぱいも強くしないれえっ!」

 アリスはいやだいやだと言いながら、どんどん発情した顔になっていく。
 こわごわと俺とアリスのセックスを見守っていたリナが、目を丸くして呟く。

「嘘……アリス、それ本当に気持ちいいの?」
「んるうっ! わ、わかんないけどっ! なんか、全身ざわついて、すごいの来るぅ!」
「おっと、もうイキそうなのか?」
「い、いくって何? あ、あああ、なんかくるうぅっ! ああぁっ――」

 アリスがびくんっと震えた。声も出せずに仰け反って、全身を波打たせる。足指の先までぴんと伸ばして、最後にがくりと全身から力が抜けた。

「はぁ、はぁ……あふぅ……」
「ア、アリス? 大丈夫? ねえ!? 涎垂れてるわよ!?」
「心配するな、リナ。今アリスは気持ちよすぎて動けないんだ」
「そんな……ありえな――いやぁ!」

 触手でリナも持ち上げ、空中で股を開かせる。
 俺はアリスのイキまんこから溢れる愛液とともに引き抜いたペニスを、リナの濡れっぱなしのおまんこにあてた。

「俺とアリスを見て興奮してたんだろ? ぐっちょぐちょだ」
「ち、ちがっ! レイジ様……お願い許して……わたし、さっきから何が起こってるか、全然わかんないよ……」

 困惑しきって再び泣きそうなリナ。自信にあふれた顔が、今は情けない媚び顔になっている。

「すぐにわかるさ。っと!」
「あ、あああん! レイジ様ぁっ!」

 挿入すると、リナは処女喪失の時とは少し色の違う、快感交じりの声を発した。
(にしても、たまんない感触だぜ)
 俺はリナの奥深くまでペニスを突き刺しながら、ふうと息をつく。

「どうだ、さっきと違う感覚がないか?」
「あれ……んんう、やだ、わたしまで、変な声出ちゃう!」

 ぐちゅりぐちゅり、とリナの中を蹂躙すると、甘ったるい声が、荒い呼吸とともに漏れる。

「はあ、んあ、んうう――」
「どうだ、初めて味わう、男に支配される快感は」
「うそ、なんだか、全身が熱くなって、ああぁなんかこれ、ダメぇっ!」
「気持ちいいんだろ? それを認めたら、もっと気持ちよくしてやろうか?」
「もっと、気持ちよく……? い、いやよっ! 気持ちよくなんてないっ! 抜いて!」
「いつまでそう言ってられるかな」
「んひゃっ! いきなりじゅぶじゅぶかきまわすなぁっ! あ、あんっ」
「ほーら、もっと強くしてやろうか?」
「つ、強くしてくれるの……? って、ダメよダメ! 認めないわ!」
「ったく、こっちが我慢できなくなってきただろうが!」
「ああぁぁっ! 激しいっ!」

 思い切りフィニッシュしようと、腰振りを加速する。
 触手がリナの乳首や口内を弄び、腋から足の根元まで絡みつく。リナは反発しながらも媚びるような喘ぎ声をあげてしまい、わけもわからずどんどん高まっていくしかなかった。

「ん、んぷぅっ、あふぅ、ああん、んぶうっ、やあぁっ……触手、使わないれぇっ!」
「リナもイキそうだろう? イクときはちゃんとそう言えよ」
「わ、わたし……何これ、あああぁっ、レイジ様ぁっ!」
「出すぞ、リナ!」
「ああ、もう嫌ぁ! イク、イクイクイクぅ!」

 俺が果てると同時にリナは、はしたなく叫びながら背を弓なりに反らして、アクメを迎えた。表情がすっかりとろけてしまっている。姫の誇りも威厳も忘れた、メスの顔だった。

「あー……あぁ……レイジ様ぁ」

 虚ろな瞳で見つめてくるリナ。俺を呼ぶ声はすっかり甘えるような響き。

「どうだ、俺との絆、深まっただろ?」
「せっくすって、すごい……レイジ様のこと疑って、ごめんなさい……」
「もっともっとセックスすれば、ますます絆が深まるんだ。俺はもう十分だと思うけど、リナがしたいならまだ続けてやってもいいぞ」
「……もう一回、してくれるの?」
「ちゃんとお願いすれば、してやるけど」

 リナは発情した媚び顔で、簡単に俺に屈服したのだった。

「レイジ様ぁ……もう一回、リナとセックスしてください……」

***

「あれれ? 開かないのです」

 その時、ノエルは回復ポイントの前で立ち往生していた。
 どうしようかと考えていると、中から聞こえてきた音に、彼女は飛び上がった。

「レイジ様ぁ、気持ちいいよぉ! すごいっ!」
「ふああ、すごいわっ! もっとしてっ! もっとぉ、あうう!」

 自分の主人であるアリスと友達のリナが、聞いたこともないような甘ったるい声で喘いでいるのだ。
 ノエルには何が起こっているのかさっぱりわからなかったし、推測できるほどの頭もなかった。

「ふ、二人とも!? 大丈夫なのですか!? 今行くのです!」

 ドアを破壊してみようと槍を構えるが、そこでアリスの媚びるような悲鳴が聞こえる。

「ダメぇ! もうダメなのぉ、それ以上来ないでぇ!」
「そんな、どうしてなのですか? わたしはアリスの姫騎士です! お役に立ちたいのです!」
「これ以上来たら、またイっちゃうからぁっ!」
「い、いっちゃう? リナさん?」

 王家では、性に関する教育を行わないのが通例だった。ましてやこの世界の文化レベルは低い。ネットも雑誌もないから、エロについて知るには、いわゆる「淫書」と呼ばれる書物を学園の図書館の禁書の棚からこっそり持ち出す以外になかった。
 そもそも「淫書」の存在すら知らないノエルにとっては、別次元の不思議現象にしか思えないのだった。

「わかったのです……ここで、お待ちするのです」

 ノエルは騎士らしく、主人の言いつけを忠実に守ることにした。

***

 一方その時、城のほうでは異変が観察されていた。

「なんだ……あの飛影は?」

 ヘーゼルは、例の塔の最上階の自室から、空を見ていた。
 仕事の手を休め、ほっと一息つくだけのはずだった。なのに、空に黒い一つの怪しげな影を見つけしまったことで散らかった部屋から双眼鏡を探し出さなくてはならなくなったのだ。
 レンズからその影を見た時、ヘーゼルの背筋に冷たいものが走った。

「あれは……龍《ドラゴン》……?」

 城に向かって飛来するのは、ダンジョン最深部に現れると伝承され、その姿が古代文献に描かれている伝説の黒龍にしか見えなかった。
(起きてはならないことが起きている……)
 ヘーゼルは冷静ながらも手早く棚から手鏡を取り出す。それはただの手鏡ではなく、魔力で新たな役目を付与された鏡だった。
 鏡には、ヘーゼルの顔は映っていなく、もやがかかったようになっている。

「マカデミア! 聞こえるか」

 呼びかけると次第に鏡のもやはとれ、そこに赤髪を一つに束ねた女の顔が映し出される。どこか不良めいた雰囲気がある女だ。
 その顔は人懐こい笑みを浮かべてふざけた口調で言う。

「研究部屋にこもりきりのヘーゼル教授どのか。そんな深刻な顔をして、何かあったのかい?」
「まずい。龍が城に向かってきている可能性がある。姫たちの戦力を集めて」

 眉をひそめる赤髪の女。

「そんな……龍なんて、本気で言ってるのか?」
「わたしがそういうくだらない嘘をつくと思うか」
「……ヘーゼルが言うなら事実のようだな。了解した」

 一転、鋭い表情になったマカデミアと呼ばれた女は鏡から姿を消した。

***

「ふう、ベッドがいくらでも精力を回復してくれるせいで、ついやりすぎちまったか」

 眼下には、精液を体内にも体外にもぶっかけられたまま、発情顔で仲良くヒクヒク震える二人の美少女魔法使いたちがいた。
 リナを魔力源とした蔓触手は、必要がなくなったので消した。

「レイジ様の白い液体が……わたしの体に、こんなにたくさん……」
「すっかり俺の女になっちまったな、リナは」
「わたしが……レイジ様の女……?」
「嬉しいか?」
「一番にレイジ様にセックスを教えてもらえるなんて、わたしは光栄な姫……なのかもね」

 リナはぼんやりと、俺に微笑んだ。

「やっぱりリナは俺に惚れてるんだね」
「惚れて……わ、悪いかしら」

 リナが恥ずかしそうに言う仕草が、たまらなく可愛い。
 ところで、気になることがある。

「アリス? さっきから全然喋ってないけど大丈夫か?」
「……ん、なーに、レイジ様? わたしも……レイジ様とのセックス、気持ちよかったよ」

 アリスは微笑みつつも、どこかぐったりとしている。

「調子悪いのか?」
「うーん……ちょっと、身体が変な感じで。体力は満タンなのに……おかしいな」
「ま、リナもアリスもセックス初体験して、女として生まれ変わったようなもんだからな。ちょっと身体に不調を感じるのも自然だろ」
「うん……」

 アリスは、寝返りを打って俺に背を向けた。

「さて、さすがに時間がまずいことになってそうだな。そろそろ帰ろう」

 時計はないかと、アリスの荷物をあさる。
 例の逆さ砂時計が出てきた。この世界の時計の役割を果たすのはこの道具らしい。下部分には、ほとんど砂が残っていない。
(これ、どういう仕組みなんだろう)
 何か設定された時間制限があると、それに合わせて砂が減っていく魔法道具なんじゃないか、と推測した。それなら、もうすぐダンジョン実習時間は終わりか。
 他にも何かないか探してみる。
 虫めがねが出てきた。アナライザーとか言ってたか。試しにアリスに向けてみる。

【LV】10
【HP】100
【EXP】15
【STR】23
【DEF】18
【MST】57
【MDF】53
【SPD】25
【SKI】?

 レンズの上でさらさらと黒い粒子のようなものが渦巻いて、そのように文字が浮き上がってきた。
(HPにEXPか……マジでゲームと同じだな)
 MSTはMAGIC STRENGTHを略したもので、魔法攻撃力。MDFはMAGIC DEFENCEの略で魔法防御力だと思われる。SPDはSPEEDかな。
 
「リナ、俺にアナライザーを向けて、俺のステータスを教えてくれないか」
「ん……いいわよ」

 乱れた髪を直しながら起き上がって、何気なくレンズを覗く。
 その目が、驚愕に見開かれた。

「何……これ!? レイジ様って……!」
「あ? なんだよ」
「やっぱり、凄い人なのね……読み上げるね」
 
【LV】150
【HP】1050
【EXP】0
【STR】103
【DEF】105
【MST】251
【MDF】204
【SPD】154
【SKI】御影の腕

 リナは、そう言った。数字ばかりでわかりにくいけど、リナより全然高いことはわかる。
 もともと細マッチョな身体だったから、攻撃力より魔法攻撃力のほうが高いのは予想していた。
 経験値がゼロなことから、レベルがカンストしていることも読み取れた。

「レイジ様は、この学園に来るまでずっと帝都で修行を積んでいたって聞くけど、どうやら本当みたいね」
「ま、まあな」

 最強ステータスのまま肉体を預けてくれたスミレに感謝だ。

「御影の腕……皇族秘伝の超レアなスキルじゃない。使って見せてくれない?」
「え、いや、今俺記憶喪失だし。どういうスキルなんだ?」
「霊を、人間から取り出せるのよ」
「マジで? すごいけどさ、取り出しちゃって大丈夫なの?」
「大丈夫らしいわよ。死なない限り、霊と肉体は完全には切り離せないって授業で習ったわ」
「取り出しても戦闘で使えなくないか?」
「霊が秘めた魔力を直接使えるから、普通の魔法とは比べものにならないほど強力な魔法を放てる……確かそうだったかしら」
「ほう……強そうじゃん」
「試しにやってみたら? わたしの霊、使っていいわよ」
 
 リナは目をつぶって、俺が何かするのを待っている。
(霊……魔力を吸い出す時みたいに、触ればいいのか?)
 胸に触れて、念を込めてみる。すると――

「んっ――!」
「うおっ」

 指が、リナの身体の青白く輝く部分にめり込んでいた。
 手ごたえを感じた。腕を引き抜くと、リナの中からなにか眩く光る青白いものが出てくる。
 それを取り出されたリナはくたりと眠るようにベッドに倒れた。

「リナ? ……おい、大丈夫か?」
「……」

 返事はないが息はしている。身動き一つしないが、死んでいるわけではなさそう。
 青白いものは、持っているだけで何か秘めたる力を感じさせた。
(リナの霊、取り出しちゃったのか……すげえな)
 途方に暮れていると、突然鐘が鳴り響く重い音が耳に入った。

「なんだ、いきなり。びっくりさせるなよ」

 遠く、学園の方角からだった。
 今朝と違うのは、激しく打ち鳴らされている点だ。なんとなく危機感をあおられた。
 とりあえずリナの霊を彼女の体に戻すと、リナはびくっと震える。そのまま起きない。
 寝ているふたりを置いて、外の様子を見ようと小屋の外に出てみる。
 ドアを開けた目の前にノエルが立っていた。

「あっレイジ様! アリスは一体……?」
「うお、びっくりした。いきなり出てくるなよ。アリスはなんともないよ、今中で寝てる」
「よかったのです……」
「それより、あの鐘の音はなんだ?」

 聞かれて、ノエルはふと緊迫した顔になった。

「あれは招集がかかっているのです……きっと何か、学園に危険が迫っているのです」

 そう言った瞬間、空が暗くなった。
 見上げると、俺たちの真上のはるか上空を、巨大な黒い生き物が飛んでいた。
 四本の手足は短く、翼が異様に大きい。
 俺たちは気付かれていないようで、その生き物は素通りして行った。まっすぐ、学園の方角へと向かっていく。

「なんだ……今の」
「あんな魔物……見たこともないのです」

 ノエルも戸惑った様子。嫌な予感がする。学園に急いで戻ることにした。
(つづく)







<妹姫・4話>回復ポイントと初体験




 数メートル先の草むらが、かさかさと揺れる。
 こげ茶色の毛むくじゃらの何かが、ちらちらと垣間見えていた。

「|巻き付け《アイヴィー》!」

 リナが手のひらをその何かに向けて伸ばし、呪文を詠唱した。
 彼女の胸の中心が青白く仄かに輝く。
 同時に微風が巻き起こると、彼女が纏った漆黒のマントや、同じく黒のとんがり帽子がさわさわと揺れた。その帽子の先っぽはへたりと折れている。
 リナはまさに魔女姿だった。
 ぷぎぃ、と悲鳴とともに、小型のモンスターが引きづり出される。

「よし、プギーの捕獲成功ね。見てた、レイジ様?」
「すごいな。驚いたよ」
「でしょ?」

 リナは満足そうな顔で、植物の蔓にがんじがらめに縛られた豚のような魔物を見下ろした。
 同じく魔女装束のアリスは、純粋に感心した様子。

「リナちゃん、上手! 草属性の魔法ってやっぱりこういう時使えるよね!」
「まあね。このくらい朝飯前だわ」
「頼りになるのです!」

 手のひらを合わせて感激するノエルは、先程と同じ騎士姿だった。
 上半身は甲冑に身を包み、下半身はスカートがひらひら揺れている。肘から先や足先もところどころ角ばった装甲に覆われている。相変わらず、全然似合ってない。
 明るい日差しに、手にした細く鋭い槍がピカピカ照らされていた。

「なあノエル。草属性って言ったけど、他にはどんな属性があったっけ」
「忘れちゃったのですか? でも大丈夫、忘れるのはみんな同じなのです」
「それはノエルだけでしょ。レイジ様ほどの方が、そんな子供でも知ってることを忘れるなんておかしいわ」
「ああ、そのことなんだけど。どうやらこの学園に来る道すがら忘却魔法にかけられたみたいで」

 ひとまず、これからはこういう風に「レイジ」としての記憶がないことを言い訳することにしたのだ。

「そうなのですか? 魔物に悪戯されたのです?」
「ああ、そうだったかも」
「気を付けてね、レイジ様。ダンジョンの奥地では、たまに幻属性を持つ強力な魔物が出現するらしいから」

 アリスは俺を心配してくれている。気遣いの出来る優しい子だ。

「わかった、気を付けるよ」
「うん。知らないなら、わたしが属性について説明するねっ。この世界に存在する魔法は、火、水、草、氷、雷、土、風、幻、龍属性。幻属性と龍属性はレアだから、その属性の付いた武器は、高値で取引されるし、作るのも大変なんだ」
「そうなのか……やっぱりゲームみたいだな」
「ゲーム? なによそれ」
「ああ、リナ、すまん。忘れてくれ。お前は草属性専門なのか?」
「専門もなにも、一人の人間は一つの属性の魔法しか使えないし」
「うん、リナの言う通りだよ。生まれつき、一人の女の子は、一つの属性を持ってるの。わたしが使えるのは火属性の魔法だよ、レイジ様」

 じゃあ、俺の魔力は何属性なんだろう。そう思うけど、俺は魔法を発動させる詠唱を全然知らない。後でスミレを見つけたら、魔法について説明してもらうのもいいかもしれない。
 考えていると、アリスが蔦に絡まったプギーに向かって、何気なく手をかざしていた。

「クラッシュ!」

 ぽん、と軽く弾けるような音がした。
 嘘みたいな話だが、プギーはその一瞬で霧散していた。
 キラキラ虹色に輝く霧は俺とノエルを除くアリスとリナにふわふわと漂って、胸の中に染みこんでいった。

「あ、わたしレベルアップしたかも!」

 アリスは瞳を輝かせた。いそいそと荷物から何やら器具を取り出す。
 虫めがねだった。それとも、虫めがねの形をした魔力の宿る道具なのだろうか。

「レベル10に上がってるわ、アリス。これでわたしと同じ二桁突入ね」
「やったぁ、リナのおかげだね」

 二人はいえーい、とハイタッチして笑った。

「なに? 今何が起こったの?」
「|魔物《モンスター》の体は、魔力で構成されているの。だから、瀕死になったモンスターをクラッシュすることで、魔力を奪うことが出来るんだ」
「それで、新たな魔力を吸収することで、わたしたちは自らの魔力を強化できるのよ。この「アナライザー」で、魔力を数値に変換して確認すれば、自分がいかに成長したか、達成状況を確かめられるわけ」
「そうだったっけ、二人ともありがとう」

 リナもわかりやすく解説してくれた。虫めがねは、アナライザーという道具らしい。
 今度はノエルに話しかけてみる。

「そういや、ノエルの魔法属性はなんなんだ?」
「わたしには、生まれつき魔力がほとんどないのです」
「え!? ないの?」
「それゆえ、姫騎士の役に就いているのです」
「個人差があるんだな」
「当たり前じゃない。魔力って言うのは、ちゃんと言えば霊魔力、なの。人それぞれの身体に宿った霊《ゴースト》から抽出する力なんだから、ばらつきがあるに決まってるでしょ?」
「あー、そうだったそうだった」

 霊魔法か。そういやウィルベルがそんな単語を口にしていた。
 魔法発動時、胸のあたりが光るのは、その辺が関係しているのかも。

「つうかさ、なんで俺には、プギーの魔力が流れ込んでこないんだ?」
「えぇ!? 覚えてないの? 相当強い魔法をかけられたのね」
「男の人には、魔力が備わっていないのです」
「え、そんな……そういえば、そうだったような、そうでなかったような」

 まじか! 少しショック。
 でも、思い当たることがあった。
 そうか、だから現在のスミレ、元「レイジ」はウィルベルの魔力を使って、俺を召喚したんだな。

「ってことは、俺は女の子から魔力を奪って使うしかないんだな」
「そうなのです」
「なるほど。こういうふうに?」

 俺は、隣にいたリナの胸に手を当ててみた。ふにゅ、と服の上からでも柔らかい。
(初めておっぱい触った! すげえ!)
 きゃっとリナが小さく悲鳴をあげるのと同時に、その胸の中心が青白く光る。内側から光を発しているようだ。
 
「|巻き付け《アイヴィ》!」
「んあっ……!」

 もう片方の腕を近くの頑丈そうな木に振りかざし、そう唱える。
 すると、喘ぐリナから何か熱い流れが身体を巡り、木に向かってそのエネルギーが放たれた。
 どこからか現れた蔓が、鞭のようにしなり、木に何重にも巻き付く。
 引き寄せようと意識すると、蔓は独りでに蠢き、木からみしみしと音が響き始める。
 あっという間に、倒木した。さっきまで木が立っていた場所には、葉がひらひらと舞うのみ。

「けっこう威力高いな……!」

 どうやら、男が使う魔法は強力なようだ。
 リナは触れられた胸を押さえるように、自分の体を抱いていた。

「レイジ様のば、ばか! いきなり触らないでよね!」
「だめだよリナちゃん! レイジ様にそういう言葉づかいをしてはいけないのです」
「そうだよ、リナ。でも……ちょっとわたしもびっくりしたなぁ……」

 アリスとノエルは、顔を見合わせて、少し頬を染めている。二人とも恥じらう乙女というわけだ。

「すまん、俺が悪かった」

 謝っておくと、リナはそっぽを向きながら腕組み。

「い、いいわよ謝らなくても。それにしても、男のほうがわたしたち女よりずっと高度で魔力消費の激しい魔法が使えるなんて、矛盾してるわよね。神様は、何を考えてるんだか」
「わたしたち騎士は、魔力が羨ましい限りなのです」
「でもさ、ノエルは騎士としてちゃんと武術を習ってるんだろ? 今度ちゃんとした大型モンスター討伐クエストを受注して、戦闘姿を見せてよ」
「えーと……ちゃんと戦えるようになったら……あ、なんでもないのです」

 慌てて誤魔化すノエル。
(思った通り、ノエルはなんちゃって姫騎士みたいだな)
 クリスティーユとは風格が違う。
 にしても、また情報がごちゃごちゃしてきたな。
 男は魔力を持たないから、女の子の魔力を使うしかない。ひとまずそれだけ覚えとこう。

「あ、わたし、一つ思い出したのです!」
「どうしたのよ、ノエル。今日受注したのは超簡単な「プギー十匹の討伐」よ。学期始めだしってことで、みんなでそう決めたでしょ? 前みたいに、クエスト内容忘れてたとか言わないでよね」
「実は、薬草を切らしているので、採集したいのです。調合して回復薬にするのです」
「あ、じゃあわたしも行くっ。今ぐらいって、ちょうど回復薬が尽きる時期だよね。レイジ様とリナはどうする?」

 俺も薬草がどんなものか気になったので、アリスとノエルについていくと言おうとすると、リナが腕をとんとんと叩いた。近い距離、小声で囁かれる。

「ね……二人で回復ポイント行かない?」

 リナは頬を染め、なんだか恥ずかしそうに言う。
(俺と二人きりになりたいみたいだな)
 普段偉そうにしてるリナが、今はなんだか初々しい表情をしていた。
 たぶん、回復ポイントとは体力を回復できる施設だろう。ゲームにはよく出てくる名称だ。
 リナと二人きりになれるなら、色々エロイことが出来そう。

「じゃあ、俺はリナに回復ポイントまで案内してもらうよ。少し疲れ気味だからね」
「そっか。わたしたちも少ししたら休憩所に行くから、二人でゆっくりしててね」
「一旦さようならなのです!」

 二人は俺とリナの間の雰囲気に気付かず、行ってしまった。
 静かになった。
 リナは、俺を見上げ少し頬を赤くした。自信ありげだった表情が、若干、俺の気持ちを窺うような表情になる。

「えっと……すぐそこだから。行こう? レイジ様」
「ああ、そうするか」

 ちょっと緊張した表情のリナと並んで、道なりに歩く。
 進む先、木々の間に、小さな小屋のような建造物が見えていた。

***
 
「リナって、二人きりになると無口なんだな」
「そ、そんなことないわ。さっき無理やり魔法を吸い取られて、疲れてるだけよっ」
「ふーん。それなら仕方ないな」
「わかればいいのよ、わかれば」

 リナは、明らかに緊張している様子だった。
 ちらちらと俺の顔を窺い、しきりに指で髪型を整えている。
 俺が黙っていると、本当に何も話しかけてこない。仲良くなりたいけど、何を話していいかわからない、と言った感じ。
 小さな小屋の扉の目の前まで、たどり着いた。

「へえ、ここが回復ポイントか」
「そうね。強い魔物に襲われて、勝ち目がないときはここに逃げ込むのも手よ」
「魔物が入ってこれないよう、魔法で結界でも張られてるのか?」
「まあ、大体そんな感じ。はやく入りましょ」

 俺と目を合わせることなく、いそいそとドアを開けて中に入ってしまうリナ。
 後について回復ポイントに入ると、ちょっとした家みたいなものだった。小さなキッチンが備え付けられているし、食料も棚に保管してある。テーブルと椅子や、本棚もあった。
 そして、かなりの人数寝れるキングサイズのベッドが、部屋の中心に一つ置いてある。

「……レイジ様も、ゆっくりしたら?」

 そのベッドに、リナは優雅に腰かける。
 黒いブーツを脱ぐと、しっとりと蒸れたふくらはぎや足指が露わになった。
(やべえ舐めたい)
 腕が触れ合うくらい近くに腰かけると、リナはまた、髪をてぐしで直している。
 それが終わると、俺と目を合わせたくないのか窓の外を眺め始める。
(かわいい反応だな)

「リナは、男とこんなに近づくのって初めて?」
「そ、そんなの当たり前でしょう? 王族の姫であるわたしには、皇帝であるレイジ様に会うまで、他の男が体に指一本触れることも許されない。そういうしきたりでしょ?」
「だから緊張してるんだ?」
「そ、そんなわけ……! わたしはこれでも王家の姫よ! このくらいで動じているようでは、国を治められないわ」
「じゃあ、リナのほっぺたが赤いのは、熱でもあるんだろうな。どれどれ」
「へっ!?」

 リナの前髪をかき上げ、額に手をあてると、さらさらした肌が少し汗ばんで温かかった。
 目を丸くして俺の手を掴んでどかすリナ。

「い、いきなり触るなぁ!」
「なんでだよ、熱測っただけじゃんか」
「ううぅ……そ、そうだけど……さっきだって胸を触ってきたし、レイジ様って少し破廉恥だわ」
「そんなこと言うなよ。俺、リナともっと仲良くなりたいだけなんだ」
「え……わたしと、仲良く?」

 リナの顔がぽっと赤くなる。

「リナは知ってる? 女の子と、男の子が、仲良くなった時にすること」
「な、何よそれ」
「セックス」
「せっくす……? 初めて聞く言葉だわ」

(マジかよ)
 必死になって笑いを噛み殺す。唇の端がピクピクするくらい。
 世間知らずの姫様には、真実を教えてやらなきゃいけないな。

「知らないなら教えてやるよ。まずは唇と唇をくっつけて、ちゅうーってするんだ」
「嘘!? その話、本当なの!?」

 リナは手のひらで口を押さえ、真っ赤になっている。でも興味津々のようで、訊いてくる。

「その後は、ど、どうするって言うのよ!?」
「それはお楽しみってことで。どうだ、リナは俺とセックスしてみたいか?」
「そんな……いきなり訊かれても」

 俺を困り顔で見つめながら、迷うリナ。背中を押してやらないとな。

「なあリナ。俺たちは、いつかは赤ちゃんを作って王家を繁栄させる義務があるじゃないか。俺の聞いた話によると、セックスして仲を深めると、赤ちゃんができやすくなるらしいんだ」
「あぁ……そういうことだったのね。赤ちゃんの作り方、ずっと気になってたの。大体の見当はつけていたのよ、わたしだって」

 リナは、わけ知り顔でふんふんと頷いている。
(ダメだ噴き出しそう)
 だがここで手を緩めるわけにはいかない。俺は前世において、幼馴染みに告白できなかったことを後悔していた。イケメンに生まれ変わったからには、全力で女の子たちを抱きまくる!
 なんとかイケメンスマイルを保って、もう一度質問。

「ってことで、リナは俺とセックスしたい?」
「まあ、王家の繁栄のためなら……仕方ないじゃない」
「じゃあリナ。色々驚くことがあっても、全て俺の言うことに従えるか?」
「し、従うわ……本当に、仕方ないわね」

 リナは恥ずかしそうに太ももの間で指をもじもじしている。

「じゃあまず、こう言うんだ。「レイジ様、愛してます」って」
「なによそれ!?」
「従うんじゃないのか?」
「い、言えばいいんでしょ!? れ、レイジ様……愛して、ます」

 ほとんど消え入りそうな声。恥じらう様子が、見ていてたまらない。

「次は、唇と唇をくっつけること……キスをしてみようか。こっち向いて、目をつぶって」
「うん……」

 リナは、俺と向かい合う。
 ほんのりとロイヤルリッチな感じのいい香りがリナから漂った。王家で大切に育てられた姫が、熱を帯びた表情で、ゆっくりと目をつぶり、そっと瑞々しい唇を前にさし出しているのだからたまらない。
 俺はベッドに置かれたリナの手に自分の手を重ねて逃げられないようにした上で、その唇を奪った。

「ん……! ぅん……」

 触れるだけのキスだが、リナの指は、ぴくぴくと反応した。
 初めてキスを体験した俺は、感動していた。
(女の子の唇が、こんな甘いなんて!)
 次に、俺は舌を少し出し、リナの唇をそっと舐めてみる。

「ん! ん……」

 なすがまま、俺に唇を舐められるリナ。甘い響きの息を漏らす。
 そのまま、俺は舌をリナの唇に差し込んだ。

「んうう! んちゅ……れろ……!」

 ディープキスをすると、リナは慌てて離れようとするが、手のひらを押さえられているので逃げられない。
(気持ちいい……止まらない)
 息が苦しくなってきたところで唇を離すと、涎が舌と舌の間でアーチを形作る。
 リナは半開きの瞳の、ぼんやりした顔で言った。

「なんだか、力が抜けちゃうわ……もしかして、わたしに魔法をかけたの?」
「なんにも。キスで、リナは感じてるんだ」
「かんじてる?」
「そう。赤ちゃんを作るのって、気持ちのいいことなんだ。たくさん気持ちがよくなればよくなるほど、赤ちゃんはできやすくなる」
「本当かしら……でも確かに……わたしたちの絆、深まってる感じがするわ」
「もっと近くにおいで」
「もう一回……キスするの?」
「次は、リナの体を触らせて」
「そ、そんなのダメに決まって……これも、従わなくちゃダメ?」
「ああ。絆を深めるためだから。今日で、赤ちゃん作っちゃおうぜ」
「それなら……仕方ない……じゃない」

 リナは熱に浮かされたような様子で、言われるまま俺の膝の上にまたがった。
 魔女衣装の前は、赤いリボンを交差させ、結んであった。それをするするとほどくと、簡単に襟がゆるまってしまう。

「いや……こんなの、恥ずかしすぎるわよ……」

 そう言いつつも、リナは嫌がらず、顔を背けるのみだ。やっぱり、俺に惚れてるみたいだな。
 華奢な肩や、細い鎖骨を出していく。黄緑色のブラジャーもゆっくりと外す。
 最終的に、リナは白くぷるんとした胸を露出した。ピンク色の小さい乳首がぴんと立っている。

「あ……やだ、そんなに見ないで……きゃ」

 恥ずかしそうに胸を隠そうとする手のひらをどけて、俺はリナの胸を揉んだ。コリコリと、固くなった乳首を摘まむのも忘れない。

「触っちゃ、ダメ……なんか、くすぐったいっていうか……んっ……へんな感じ」
「それ、感じてるんだぜ」
「そう、なの? ん、ふぁ……なんか、身体熱くて、おかしい……」

 リナの息が荒くなり、時折喘ぎ声のようなものが混じる。女の快感を初めて味わうリナは、戸惑っているようだった。
 
「ち、ちょっと! 一旦ストップ! やだ、なんかゾクゾクする……」

 まろびでた乳房を隠しながら、力が抜けたようにベッドに倒れ込むリナ。俺は彼女がいなくなった膝の上に、シミが出来ているのを見つけた。

「濡れちゃってるね」
「な、何これ! わ、わたし、おもらしなんてしてないんだからね!」
「わかってるよ。それ、リナの愛液だろ?」
「あ、あいえきって、なによ……? ひゃぁっ」

 俺は、問答無用で寝転がったリナの太ももを押さえつけた。黒いスカートの下、薄い黄緑色の下着が湯気が出そうなほど濡れていた。

「な、なにするのよ! そんな破廉恥なところ、見ないでっ!」
「俺の命令には、従う約束だろ? そのぱんつ、自分で脱ごうか」
「さ、さすがにそんな変な命令、聞かない……きゃっ!」

 なら、無理やり脱がすのみ。のしかかり、嫌がるリナを力でねじ伏せる。
 すぐに、彼女は足を広げさせられ、性器をさらすことになった。ピンク色の、鮮やかなサーモンピンクの綺麗なおまんこが、ぐじゅぐじゅに濡れている。

「レイジ様、本当に、これがせっくす、なの……?」

 観念したように、リナは抵抗を諦め、涙目で俺を見つめている。
 俺は、さっさとズボンの前を開け、ペニスをぼろんと取り出した。それを察知したリナが目を見開く。

「きゃ……それが、噂に聞く男の人の……? 大きく……ない?」
「普段は縮こまってるんだけど、可愛い女の子を見ると大きくなるんだ」
「か、可愛い……? と、とにかく、そんな破廉恥なもの、しまいなさいよ!」
「もうすぐセックスは終わりだから最後までやらないとな。リナのここに、小さな穴があるだろ?」
「そ、そんなところ、見ないでっ! レイジ様のばかぁっ!」
「ここに、俺のちんぽを突っ込むんだ。あ、ちんぽっていうのはこの棒な」
「嘘……そんなわけない! だって、そんなおっきいの、この小さい穴に入るわけないじゃない!」
「それが入っちゃうんだよな。いくよ、リナ」
「え、ちょっ……んあああぁ! 痛ぁっ!」

 ついに俺は、童貞を卒業した! リナの中に、ペニスが食い込んでいく。
 とろとろに柔らかい膣が、きゅうっと締め付けてくる。愛液まみれのぬるぬるした感触は、初めて味わうものだった。
(やべ……超気持ちいい! ちんこ溶けそう!)
 ついさっきまで包茎だった俺のペニスが、あまりの快感に悲鳴をあげる。今にも射精してしまいそう。
 ペニスをさらに押し込むと、ぷちぷちと中を裂いていく感触がある。リナの処女が散っていくのがつぶさにわかる。
 
「レイジ様が……わたしの中に……あぐぅ……!」

 ぎゅっと閉じたまぶたから涙をこぼすリナ。その膣からは、うっすら血が滲んでいた。
 一番奥まで押しこんで、ぴったりと腰を密着させる。リナはひくり、ひくりと震える太ももで、俺のわき腹を挟んでくる。

「ひぐっ……お願い……痛いの……動かさないで!」
「う……俺も、もう動かせねえ……限界!」
「え? きゃっ! どくん、どくんってしてる!」

(ああ……もう出ちまった)
 初々しいリナが可愛すぎて、処女おまんこが気持ちよすぎて、俺はすぐに射精してしまったのだった。
 意識が遠くなるほどの快感に、俺は背中を波打たせる。

「なにこれ……あったかい……? なにか、出てるの!?」
「ああ、これでセックスはおしまいだ」
「よかった……終わったのね」

 リナがほっと一息ついているとき、俺はベッドが青白く発光しているのに気がついていた。
(なんだ?)
 その光はあっという間に俺とリナを包み、俺はエネルギーの流入を感じた。
 ペニスの砲身や玉袋が熱くなり、再び精液が充填されるとともに、リナの破瓜の血が止まっている。

「うおっ! 回復した! そうか、このベッドはある程度体力が消耗すると回復魔法が発動する仕組みなのか」
「嘘!? なんか、もう痛くないんだけど……」
「よし、リナ。赤ちゃんっていうのは、そう簡単にできないんだ。もう一発くらい、リナの中に射精しとかないとな」
「いやあぁ! また痛くなるの!? もう痛いのはやめて、お願い!」
「ベッドがリナの膣の傷を回復してくれたし、もう痛くないんじゃないかな。赤ちゃんつくろうって言ったじゃんか、頑張れよ」
「無理ぃ、今日は、もう許して……レイジさまぁ……痛いのはいやぁ!」

 姫らしく自信に満ちた態度はどこへやら、泣き顔で懇願してくるリナ。
 しかしやめようという気はさらさら起こらず、むしろ興奮してきた。
 これから思いきり腰を振ろうとしていた時だった。

「リナっ、ただいまっ! たくさん薬草採って……きた……よ?」

 回復ポイントのドアが開いていた。
 戸口に立って薬草の入ったカゴを抱えたアリスは、笑顔のまま固まっていた。

「な、何してるの? 二人とも」

 まずいなと思って、とっさにリナの胸に手を触れた。
 んんっと喘ぐリナから魔力を強引に吸い取り、先程覚えた魔法をアリスに唱える。

「巻き付け!」
「わっ! きゃああ!」

 アリスを視界を覆い尽くすほど大量の蔦が襲い、そのカラダをぐるぐる巻きにする。
 触手のようにうごめく蔓は、みるみるうちに部屋一杯に広がっていく。
(使えるな、この魔法)
 同時に蔓でドアノブをガッチリ固定し、外から誰も入れないようにした。これ以上邪魔に入られるとめんどくさい。俺はエッチに熱中したいのだ。
 数えきれないほどの量の蔓に揉まれながら引き寄せられたアリスは、身動きがとれないままリナの隣に倒れ込む。

「きゃあっ、やめて! レイジ様、なんでこんなこと!? リナも、寝てないで助けてよっ!」
「ごめん……わたし、腰がぬけちゃって、動けなくて……」
「そんな……レイジ様、一体どうしちゃったの!?」

 目の前で、二人の魔女姿の美少女が、俺を恐怖の混じった目線で見つめていた。
(二人のおまんこ、味比べしてみるか)
 初エッチでこんなこと出来るなんて、最高だぜ!
(つづく)






グラビアアイドルが義姉になった!! 妹・陽菜編「5話」




 なんと、そこに優美さんと天辻さんが、こっそりと隠れていた! 二人とも浴衣姿で、卓球したせいか、首筋に汗が輝いていた。
 火照った体に、こんな状況にも関わらず軽く見惚れた。

「あちゃ、優美先輩、見つかっちゃいましたね」
「どうしよっか、涼音ちゃん。二人で直人君たちのランデブー、見届けるつもりだったのにね」
「覗いてたんですか!?」
「お相子でしょ? 温泉での話、陽菜から聞いたんだからね」
「そうですけど……」

 そこまで話したところで、不安そうな呼び声がかかった。

「お兄ちゃん、何してるの?」
「あ、ごめん! 今戻る」

 そう答えて、慌てて戻ろうとすると、天辻さんが最後に一言囁いた。

「先輩から話は聞いたよ? わたしから、一つアドバイス。陽菜ちゃんが痛がっちゃうのは、緊張しすぎ、考えすぎだからだと思うよ? もっとリラックスして、何も考えないで、どうぶつになっちゃえばいいよ」

(どうぶつ……何も考えない)

 僕はその言葉を頭の端に置きつつ、部屋に戻る。幸い、陽菜ちゃんは二人の存在に気付いていないようだ。

「お兄ちゃん……今日はわたし、頑張る……ね」

 そう言って、これからされることを受け入れるけなげな微笑みを浮かべ、無抵抗に寝ころんでいた。
 その姿に、どくんと心臓が跳ねる。

「陽菜ちゃん……」

 衝動的に襲い掛かりそうになる自分を抑えて、怖がらせないよう、そっと浴衣をはだける。
 下着は何も着ていなかった。可愛らしい胸の膨らみの先で、乳首がちょこんと立ち上がっている。わずかに毛の生えた股間を隠そうとしているのか、ぴたっと内股になった。
(綺麗な身体だ……幼い優美さんみたいだ)

 そして優美さんとの比較できない魅力もある。こんなにも女の子らしい恥じらいを持っている女子高生が、自分の物だなんて、夢みたいだ。
 
 屈みこんで、乳首を咥えて、舌で転がした。ちょっと甘い味がする気がする。

「あ、お兄ちゃ……あっ!」
「陽菜ちゃん、ここ感じやすい?」
「うん、もっと……もっと」

 かすかな喘ぎ声をあげて、可愛く刺激を求める姿は、支配欲をそそるものだった。
 男に恐怖心を持っていた陽菜ちゃんも、ここまで僕に慣れてきている。
(優美さんたちが家に来てなかったら、僕はこんなおいしい思いもせず、ずっと童貞だったんだろうな)

 ここまではこれまでも上手く行ってきた。
 しかし、挿入となると話は別。陽菜ちゃんは一度も、挿入で快感を得たことが無い。

「陽菜、それじゃ……いくよ」

 僕が肉棒を取り出すと、陽菜ちゃんはやっぱり少し怯えた顔になった。血管が浮き上がったソレのことが、やっぱり怖いみたいだ。

「う、うん……わたし、頑張る。お姉ちゃんみたいに、お兄ちゃんと一緒に、気持ちよくなりたい」

 何気なく襖のほうを見ると、優美さんと天辻さんがこっそり覗いている。まるで我が子の成長を楽しむように、僕たちの行為を楽しんでいる様子だ。
(まるで僕と陽菜ちゃんが、グラビア……いやAVを撮られてるみたいだ)
 そして僕は思い出した。どうぶつになる……何も考えないで。天辻さんの言う通りにしてみれば、うまく行くかもしれない。

「陽菜ちゃん、頑張らなくていいよ。もっと力を抜いて、何も考えないで」
「え……でも、痛いの、我慢しないと……」
「本当は最初から痛いはず、ないんだよ。陽菜ちゃんの処女膜は、もう僕が奪ってるから……感じれるように、身体がなってる……と思う」
「わ、わかった……」

 もちもち柔らかいふとももを手で押し広げ、陽菜ちゃんをあられのない格好にさせる。
 そしてゆっくりと、とろみのある陽菜ちゃんの割れ目に、息子を突き立てていく。
 相変わらずの強烈な締め付けで、亀頭を潜り込ませるだけで射精の予感が湧いてきた。
(陽菜ちゃんにもこの気持ちよさを味わってほしい……そして、僕の虜にしてやるんだ!)

「ん……あ、お兄ちゃん……カタい……!」
「何も考えなくていいから、そのまま、感じて」
「うん……今日、まだ、痛くない……もっと、奥まで来て。お兄ちゃん」

 ぐっと締め付けに対抗するように、腰を押し進めると、こつんと一番奥に当たる感触があった。
 陽菜ちゃんは顔を背け、ひく、ひくと腰を震わせている。

「大丈夫?」
「痛く、ないよ……ちょっと、感じる……お姉ちゃんに触ってもらってる時と、同じ感じ」
「動かしていい? 陽菜ちゃんのナカ、ぎちぎちで、凄くいいから」
「うん、優しく、してね」

 慎重に、ペニスを引き出していく。みちみちと食い締めてくるおまんこの感触がたまらない。掻きだされた温かい愛液が、睾丸のほうまで垂れてくる。
 その時に、亀頭で膣の上部分を擦ってあげると、陽菜ちゃんは甘い声でよがった。

「あ、きもち、いい……きもちいいよ、お兄ちゃん!」
「陽菜ちゃんもそこなんだ。優美さんと同じだね」
「はぁ、あぅぅ……感じる……! わたし、お姉ちゃんみたいに、男の人に、気持ちよくされちゃってるよぉ……!」

 陽菜ちゃんはついに、僕のちんぽで女の子の快感を味わえるようになったようだ!
 嬉しかった。これで完全に、姉妹は僕のものだ。えっちなグラドルお姉さんの優美さんも、奥手でかよわい陽菜ちゃんも、全部僕のものだ!

 征服感と、沸き上がる快感がたまらなくて、僕はピストンのピッチをあげていく。

「あ、直人お兄ちゃん、そこ気持ちいい……! わたし、ナカで感じてるぅ……!」
「僕もだ! 陽菜ちゃんのナカ、すごい、すごいよ!」
「お姉ちゃんにしてもらうより、ずっと、気持ちいいよぉ! こんなに、お兄ちゃんのおちんぽ、気持ちいいなんて……!」

 僕はその言葉にたまらなくなって、陽菜ちゃんを抱きしめて、またキスをした。
 陽菜ちゃんもすっかり発情顔で、僕を抱きしめ返してくれる。

「ん、おにいひゃ……んちゅ、ん」

 兄妹で唾液を交換しあって、お互いの舌で口内の快感を貪っていく。
 陽菜ちゃんの甘い唾液をたくさん味わって、盛りのつた犬みたいになって、どうぶつのように快感を求めて腰を振った。

「陽菜、陽菜……!」
「なにか、くる……あ、だめ、お兄ちゃん、出ちゃう……!」

 陽菜ちゃんも、もはや痛みなど感じないで、僕の激しいピストンを受け止めて、雌犬みたいに喘いでいる。交尾の快楽に染まって、これからも僕を求め続けてくれるはずだ!

「陽菜、もう我慢できない……イくよっ!」
「あああぁ……イくぅっ、お兄ちゃん、イっちゃうよぉ!」

 どぴゅっ……びゅるるっ、びゅっ!
 ぷしゅっ! ぷしっ……ぷりゅりゅっ!

 僕は陽菜ちゃんのナカで、思う存分、精子汁をぶちまけた。射精しながら、何度もピストンして、精子を子宮の奥まで吹きかけて、送り込んで馴染ませる。陽菜ちゃんは僕のものだと証明した。
 それと同時に、陽菜ちゃんの割れ目から、透明な液体がぴゅっと噴き出していた。
 いわゆる潮吹きだった。初めてのナカイキで潮を吹くだなんて、陽菜ちゃんは素質があるのかもしれない。まあ、あのエッチな優美さんがお姉さんなのだから、何もおかしくはなかった。

「な、なにこれ……お兄ちゃん、わたし、たくさん出ちゃった……!」
「それは潮吹きって言うんだよ」
「は、恥ずかしいよぉ……」
「すごいよ、陽菜ちゃん……きっと、優美さんより感じたんだよ。だから、出ちゃったんだ」
「お姉ちゃんより、気持ちよく……?」

 陽菜ちゃんは戸惑った表情だったけど、少し嬉しそうでもあった。初めて得ることが出来た女の子の快感の余韻に浸るとともに、その快感が優美さんより大きかったことで、自信を取り戻しているようだった。

「きゃっ、涼音ちゃん、危ないっ!」
「あ、先輩ごめんなさいっ!」

 その時、二つの声が襖が開く音が聞こえた。
 振り向くと、優美さんと天辻さんが、折り重なって倒れている。どうやら二人とも、われ先に僕たちのセックスを見ようとして、バランスを崩してしまったようだ。
 当然、陽菜ちゃんは、一瞬で、はだけていた浴衣の前を隠して、赤面して目をまん丸にした。

「あ、天辻お姉ちゃんたち、見てたの!?」
「ごめんごめん、ラブラブだったから、つい魅入っちゃって」
「陽菜、頑張ったね! これでもう、わたしが助けてあげなくても大丈夫ね」
「そうじゃなくて! お姉ちゃんたちまで覗き見なんて、怒るよ、もうっ!」
「いいじゃない。これまでも一緒に、直人とエッチしてきたでしょ?」
「これまでとは違うのっ! お兄ちゃんと初めて気持ちよくなれた、特別なエッチだったのっ!」

 陽菜ちゃんはすっかり拗ねてしまった。
 
「怒らないでよ、陽菜。どうだった? 初めての快感は? 潮吹きしちゃうなんてすごいじゃない!」
「お姉ちゃんうるさいっ!」

 優美さんは陽菜ちゃんに後ろから抱き着いて、仲良く姉妹でじゃれあっている。
 余った天辻さんは、なぜか僕のほうにやってきた。何気なく僕の隣に来て、息がかかるくらいの距離で囁いてくる。こんな美人に迫られて、陽菜ちゃんに出したばかりなのに、股間が疼き始めた。

「弟君、やるねぇ。わたし、見てるだけなのに弟君のエッチに興奮しちゃったよっ」
「あ、天辻さん、何言ってるんですか……」
「ねえねえ、わたしにも、男の子として、興味あるよね? 今度、わたしの家に……」
「こらー、涼音ちゃん! わたしの直人と何してるのっ」

 見ると声を上げた優美さんと一緒に、陽菜ちゃんまで天辻さんにジト目をむけている。
 まるで天辻さんに僕を取らせるわけにはいかない、と威嚇しているようだった。

「えー、いや、先輩、ちょっと二人で話してただけですって」
「天辻お姉ちゃん! 直人お兄ちゃんに、手出しちゃダメだよっ」
「い、いいじゃん! 姉妹ぐるみでエッチしてるなら、わたしも仲間に……」
「だめよ!」
「絶対ダメっ」

 優美さんと陽菜ちゃんは口をそろえて、僕を渡さまいと必死だ。
(すごい優越感だ……僕のために、女の子たちが争ってくれるなんて!)

「直人はわたしたちのものだもんね、陽菜」
「うん、お姉ちゃん。他の人にはあげないもんね」

 優美さんと陽菜ちゃんは、えへへと嬉しそうに笑いあっている。
 それを見て、天辻さんは不満げな顔で、肩をすくめるのだった。
(ややこしいことになったけど、幸せだ……)
 これこそが、僕の甘い生活の始まりだった。
 湊姉妹含め、さらに女の子たちに求められる幸せな生活が、今度こそ本格的に始まるのだった。

(おわり)






グラビアアイドルが義姉になった!! 妹・陽菜編「4話」





 その後、眩しい日差しの中、僕は優美さん・陽菜ちゃん・天辻さんと一緒にビーチで心ゆくまで遊んだ。

 美少女三人は、皆自分に似合った可愛いビキニを着ていて、否応もなく他の観光客たちの目線を集めていた。もちろん、その三人と一緒にいる僕は羨望の眼差しを向けられて、すごい優越感だった。
 天辻さんはこんなことを言った。

「ねえねえ弟君、日焼け止め、わたしに塗ってみる?」
「え……!? いいんですか?」
「あははっ嘘に決まってんじゃん。もう優美先輩と陽菜ちゃんと、三人で塗りあっちゃったって」

 天辻さんは僕にちょっかいを出しながらも、フレンドリーに接してくれた。というか、あまりにも親しげすぎて、困るくらいだ。

「ねえねえ弟君、浮き輪の空気入れ、わたしじゃ力足りないからやって」
「え、でも、それって……間接キスじゃ」
「そんくらい気にしない気にしない」

 そう言われて仕方なくやった。空気の吹き込み口を咥えると、少し湿っていて、どきっとした。

「直人、涼音ちゃん、早くー!」
「お兄ちゃん何してるのー!」

 浮き輪にもたもたしていたせいで、先に行っていた湊姉妹に呼ばれて、僕たちは急いで追いついた。

「それじゃあ、わたしと陽菜、遅れてきた二人のチーム分けでいい?」

 優美さんがしたいと言うので、ビーチバレーをした。僕と天辻さんVS陽菜ちゃんと優美さんで試合をした。優美さんは美人な上に運動神経もいいので、ちゃんとボールを打ち返してきた。
 天辻さんもなかなか身のこなしが軽やかで、活発に動き回る。そのせいで、二人のグラドルはぷるぷると胸を揺らして、僕と観衆の男たちの目をひたすら奪っていた。
 一方僕と陽菜ちゃんは頼りない印象通り、全然うまくボールを返せず、このチーム分けで調度戦力が釣りあっていた。
 最終的に僕と天辻さんのチームが負けて、罰ゲームを受けることになった。

「優美先輩、わたし、弟君のせいでまけちゃったんですけどー」
「確かに涼音ちゃんの言う通りだけど、二人でチームなんだから。涼音ちゃんも罰を受けなきゃダメ」
「そうだ、あと、弟君、わたしや優美先輩のおっぱいばっかり見てました。弟君が有罪です」

 それを聞くと優美さんも陽菜ちゃんも笑いながら、なぜか天辻さんに同意した。

「じゃ、罰ゲームは直人だけね」
「そんなぁ……」

 と言っても、罰ゲームは、ちょっとしたものだった。僕は砂浜に寝ころぶよう命じられた。三人が僕の上に砂をかけ始め、大して時間もかからず、僕は砂浜に埋まって、顔だけ地面から出している状態になった。
 三人は僕の顔の周りにしゃがみこんで、楽しそうにくすくす笑いあった。仲間外れにされてはいるんだけど、女の子たち全員に笑顔をむけられるのは悪くなかった。

「ふふ、胸ばっかり見てる直人は、わたしたちのことを、そこでずっと見てなさい」
「弟くんだからって、よろしくないねぇ。今もやらしい目でわたしたちのこと見てるんじゃない?」
「エッチなことばっかり考えてちゃダメだよ、お兄ちゃん」

 言いたい放題言って、変態扱いしたうえで、僕を放置して三人で波打ち際に遊びに行ってしまった。僕は砂の重さで身動きが取れず、三人を目で追うことしかできない。

「あははっ! きゃっ!」

 楽しげな声をあげながら、水をばしゃばしゃかけあっていた。優美さんと天辻さんは子供に戻ったみたいなはしゃぎようだったし、陽菜ちゃんも珍しくハイテンションだった。
(まあ見てるだけで眼福だからいいか……)

 さっき膨らませた浮き輪は三人で使い倒されて、戻ってきたのは旅館に帰る時だった。遊びまわったせいで全員疲れていて、さっそくみんなで温泉に浸かることになった。

 別に混浴ではなかった。僕は一人寂しく温泉の男湯に浸かった。
 しかし嬉しいことに、露天風呂を男女に区切る一枚板ごしに、優美さんたちの声が聞こえてくる。

「わー。やっぱり優美先輩の胸おっきい……すごいえっちな身体」
「そんなことないわよ。涼音ちゃんだってすごいじゃない。やっぱり裸と水着じゃ、印象違うよね」
「お姉ちゃん……わたしだって最近ちょっと大きくなったよ」

 三人で何やら胸の話をしているようだ。
(これは……覗きをしろと言われているのか!?)

 優美さんと天辻さんは、陽菜ちゃんにおっぱいを大きくする
 僕はそろりそろりと境界に近づいて、どこかにのぞき穴がないか調べた。もちろんそんなものはない。区切りの板はそれほど高くなかったので、おもいきってよじ登ってみた。

(いける……見えるぞ!)

 湯気越しに、ほんのりと三人の美少女たちの生まれたままの姿が見えた。優美さんと天辻さんはお喋りしながら身体を洗っている最中で、こっちに向いている二つのお尻が柔らかそうだ。
 陽菜ちゃんは温泉の淵に腰かけて、足だけお湯に浸けていた。なめらかな背中に、濡れた髪が流れている。聞こえるか聞こえないかの具合だけど、陽菜ちゃんの油断した鼻歌が聞こえた。

「……ん?」

 何かの気配を察せられたのか、こっちを陽菜ちゃんが振り向いた。
 優美さんと天辻さんに比べて、ほんのちょっとの膨らみしかない前が見えたと思ったら、すぐにお湯がばしゃりとかけられた。陽菜ちゃんの顔が恥ずかしさで真っ赤になっていた。

「お兄ちゃんのばか!」

 慌てて首をひっこめて、僕はさっさと入浴を済ませた。
 部屋に戻ってくると、陽菜ちゃんだけ女湯から戻ってきていた。開口一番に言われた。

「……覗き」
「悪かったよ、陽菜。ちょっと隙間があるのがいけないんだって」
「……でも、ダメなの」

 陽菜ちゃんはちょっと不機嫌顔で部屋の隅っこに行ってしまった。
 浴衣姿だ。ちょっとサイズがあってなくて、だぼっとしていて可愛い。
 お風呂上がりで、肌がピンク色に上気している。長い髪も濡れてつやつやで、タオルでそれを拭く仕草がなんだか色っぽかった。
(風呂上がりの女の子っていいなぁ……)
 ぼーっと眺めていると、陽菜ちゃんがぽつりと言った。

「お姉ちゃんたちは、卓球して遊んでから帰ってくるって。わたしは疲れたから帰って来ちゃった」
「あ……僕も行けばよかった」
「いいの、お兄ちゃんは。一緒にお部屋で待ってようよ」

 そう言って、陽菜ちゃんはちょっと恥ずかしそうにしている。僕に背を向けて、ごそごそ旅行鞄をいじっているかと思うと、急に僕のスマホが鳴った。
 陽菜ちゃんから画像が送られてきていた。開いてみると、さっき撮られていた、僕が砂浜に埋まっている写真だった。僕の後ろにビキニ姿の優美さんと天辻さんが写っている。
 
「お兄ちゃんの写真撮ったの。……あげるね」
「ありがと、陽菜ちゃん。他にも写真ある?」

 何気なく聞くと、覗き込むような目線で、聞いてきた。

「……お姉ちゃんたちの水着写真が、欲しいの?」
「え、別にそういうわけじゃ、ないんだけど」

 本当にそんな下心はなかったのに、陽菜ちゃんはすっかりそうだと思いこんだようで、ちょっと落ち込んだ様子だ。

「お兄ちゃんって……やっぱり、胸の大きい女の人のほうが、いいんだ」
「そ、そういうわけじゃ……ほら、大きさじゃなくて、形の綺麗さとか、あるでしょ? 陽菜ちゃんの、すごく可愛い形で……」
「……お兄ちゃんのえっち」

 陽菜ちゃんは温泉で見られたことを再び思い出したのか、ちょっと頬を赤くしてそっぽを向いた。
(余計なこと言っちゃったな……ここはちょっと頑張らなくては)
 ここはちゃんと言葉を選んで、陽菜ちゃんの悩みを解決して、また仲良くならないと。
 僕は陽菜ちゃんの兄だ。しかも特別な関係さえ持つ兄妹なんだから、僕が励ましてあげないでどうするんだ!
(うまくいくか、わからないけど。僕でもそれなりにやれるはず……)

「陽菜ちゃん、ええと、僕……陽菜ちゃんのこと、すごい可愛いと思うよ」
「え?」

(しまった……唐突すぎる)
 言った自分でもちょっと恥ずかしくなった。
 陽菜ちゃんもぽっと赤くなっている。しかし、すぐむっとした顔になった。

「うそ……お兄ちゃん、わたしよりお姉ちゃんのほうが好きなんでしょ……お姉ちゃんみたいに、色っぽい女の人が」
「そりゃ優美姉さんのことも大好きだけど、陽菜ちゃんもだよ。二人とも、違う魅力があって……もしかして、陽菜ちゃんは優美姉さんたちと自分と、比べてる?」
「ち、違うよ……そんなんじゃないもん」

 そう、ちょっとムキになった感じで言われた。そしてこう付け加えて、うつむいた。

「なんとなく最近、自信が持てないだけだもん……」

 この一言で、大体わかった。
 陽菜ちゃんは、自分の魅力を証明してほしいんだ。つまり、他人に求められたいんだ。それなら、誘ってあげられるのは僕しかいない。
 これまで、陽菜ちゃんとうまくセックスできていなかった。そのことで陽菜ちゃんが引け目を感じていることは間違いない。
 男としてのやる気が漲って来る。そう、湊姉妹は、もう僕の物なんだからっ!

「ぼ、僕、言いたいことがあるんだ」
「え、なに?」
「僕、陽菜ちゃんのこと大好きだから……! ほんとに可愛いと思ってるよ!」

 正面から言うと、陽菜ちゃんはどうすればいいかわからないと言った様子で、ただ顔を真っ赤にした。
(やらかしたかな?)
 しばらく陽菜ちゃんは何も言わずにいたけど、結局ぽつりとつぶやいた。

「わ、わたしも……」
「陽菜ちゃん……!」

 ちゃんと反応してもらえてほっとすると同時に、正直、ストレートに言ってもらえて物凄く嬉しかった。
 感無量でいると、続けて言われた。

「お兄ちゃんは、わたしみたいな子で、いいの?」
「あ、当たり前だよ!」

 そのままの勢いで、思い切って抱きしめた。これまでずっと、優美さんにリードしてもらっていたから、自分から女の子をリードするのは、ドキドキした。

「おにい、ちゃ……んっ」

 そして、もはや衝動的にキスをした。
 陽菜ちゃんは最初は驚いていたけど、すぐに目を閉じて身を任せた。僕の背中に手を回して、陽菜ちゃんのほうからもぎゅっと抱きしめてくれる。

「ん……んうぅ……」

 喘ぎ声を聞いて、僕の股間は一瞬でガチガチになった。そのまま僕は陽菜ちゃんを押し倒して、のしかかるようにキスをする。
 しばらくして唇を離すと、陽菜ちゃんは、目をうるうるさせて恥ずかしそうに微笑んだ。

「お兄ちゃん……でも、お姉ちゃんたち、そろそろ帰って来ちゃう」
「卓球してるなら、きっとまだまだ帰ってこないよ。万が一を考えるなら、ドアに鍵かけとこう」
「……うん」

 僕は甘いキスの余韻でくらくらしながら、ホテルの一室のドアを閉めるため、襖を開けた。
 と、そこで危うく声をあげそうになった。

 なんと、そこに優美さんと天辻さんが、こっそりと隠れていた!

(つづく)






グラビアアイドルが義姉になった!! 妹・陽菜編「3話」






 空も海も、透き通るような青。そして足元はさらさらした、白い砂。
 そんな美しい夏景色の中、優美さんがビキニ姿で、ビーチパラソルの下、寝そべっている。真っ白な肌は、眩しいくらいで、何度見ても見惚れてしまう。

「優美ちゃん、今度はもっと自然な感じで、ちょっと首を傾けてみようか」
「えーと、こんな感じですか? ふふっ」
「そうそう! いいねえ、やっぱりいいねえ優美ちゃんはっ!」

 カメラマンの人が、興奮した様子で繰り返しシャッターを切っている。今は、DVDの表紙を飾る写真を取っているところだ。
 優美さんが愛想よく接するので、カメラマンの人はすっかり魅了されているみたいだ。
 一通り写真撮影が終わると、そこに見覚えのあるグラビア女優さんが合流した。
 天辻涼音、18才。優美さんの後輩の、新人グラドルだ。優美さんと何やら楽しそうに笑いあっている。
 目を引くのは、手元に小さな犬を抱きかかえていること。
(あれは……チワワかな?)
 優美さんも、その天辻さんが抱える犬をよしよしと撫でて可愛がっている。
(優美さんとHしている身だけど、羨ましい……)

 僕と陽菜ちゃんは、たくさんの撮影スタッフたちの後ろから撮影現場にお邪魔させてもらっていた。
 隣の陽菜ちゃんは、ひらひらした薄手のスカートに、パーカーを羽織っている。その下には、きっと水着を着ているはずだ。この後、優美さんと三人で、海水浴を楽しむ予定になっている。
(美少女姉妹と海水浴か……楽しいことだらけだ……)

 ぼんやりと優美さんたちの美しい身体を眺めていると、目が合った。にっこり笑顔で、優美さんが僕のところに歩いてきた。隣に、チワワを抱えた天辻さんも連れている。

「直人、陽菜、待たせちゃってごめんね。次のDVDの撮影が一段落したら、一緒に海に行けるから」
「いやいや、優美さんの撮影の様子を見れるだけで、楽しいです」
「お姉ちゃん、わたしも……楽しい」
「そう? 相変わらず、二人ともわたしの作品、好きだよね」

 優美さんが嬉しそうに笑っていると、隣の天辻さんが関心ありそうに、僕と陽菜ちゃんを見ながら言った。

「優美先輩、これが話に出てきた、優美さんの家族ですか?」
「うん。二人ともわたしの出演作品、ちゃんと全部見てくれるの」
「えっ! それじゃあ、共演したわたしのことも、DVDを通して知ってるってことですよねっ!」

 天辻さんが興奮気味に言う。身体を揺らすと、水着にくるまれた大きな胸がたゆんと揺れた。
 屈みこんで僕たちに顔を近づけて、瞳をキラキラさせながら言った。
 
「二人とも、わたし、どうだった? エロかったかなぁ? 感想教えて教えてっ!」

 僕は話題よりも、屈みこんだことで強調される、胸の谷間にどうしても意識が行ってしまう。

「あの、えと、すごい、良かったです……」
「どのへんが? 男の子として、どう思ったのっ?」
「その、可愛いし、優美さんと同じくらい、おっぱいも、大きくて」

 流されて、思わず感じたことを包み隠さず言ってしまった。優美さんと天辻さんが、同時に胸を気にして、くすくす笑った。

「えーと、優美さんの弟の、直人君だっけ。おっぱい好きなんだ。あはっ」
「そうなの。この間もおっぱいばっかり揉ん……あっ」
「え!? 今なんて言いました、先輩?」
「な、なんでもないわ……気にしないで」

 優美さんが一瞬慌てるのを見て、天辻さんは狐につままれたような顔で、目をぱちくりさせている。
(僕と優美さんは義理と言えども姉弟……セックス三昧だなんて知られたら大変だ)
 誤魔化せたようなので、ほっと安心の溜息をついた。

「わたしはそろそろ撮影だから、戻るね」

 優美さんは逃げるように、僕たちから離れていった。準備は整っていたようで、メイクや髪型を整えてもらって、すぐにカメラが回りだす。

「わたし、出番はもうちょっと後だから。弟君、隣に座って一緒に撮影見てもいい?」
「あ、もちろんいいです」
「ありがとねっ」

 チワワを抱えたまま、僕の隣に腰を下ろした。美少女二人に挟まれて、単純に気分が高揚する。撮影用のお化粧のいい匂いがした。
 優美さんは、カメラに向かって語りかけながら、素敵な笑顔を見せている。ぴょんぴょんと跳ねて、おっぱいを揺らしてファンに向かってサービスしている様子は、まさに眼福だった。
 天辻さんがまた喋りだす。

「君があの超絶美人の優美先輩の弟なのかぁ……なんか顔、あんまり似てないね。妹ちゃんは納得の美少女だけど」
「あー、実は優美さん、義姉なんです」
「なーんだ。そっか、血がつながってないんだ。やっぱり男の子って、優美さんみたいな凄い美人が毎日近くにいて、大変なんじゃないの?」
「そ、それは……まあ」
「あはっ。やっぱりそうなんだ。興奮するのは仕方ないよね。人間も動物だもん。ねえ、ベル」

 ワン、と甘えるような声で吠えて、ベルと呼ばれた子犬は尻尾を振っている。かと思うと、突然驚くことをした。

「ひゃんっ!」

 ビキニの上から、ぺろりと小さな舌で天辻さんのおっぱいを舐めたのだ。しかも、乳首の辺りだ。天辻さんの表情が、一瞬色っぽいものになる。
(天辻さんって、セックスしてるときは、ああいう表情になるのかな)
 二人の美人のビキニ姿で、勃起しかけていた股間が、完全に反応して大きくなってしまう。ちょっと前かがみになって、ばれないようにする。
 当の天辻さんは犬を叱る方に意識を向けていて、全く僕の変化に気付いていないようだ。

「だめだってば、ベル。そんなとこ舐めちゃ」
「ワン……ワン!」
「君もオスだからおっぱい好きなの? まったくもう。今度は許さないよ? わかった?」
「くぅ……」

 天辻さんはベルのわきを持って、顔の高さまで持ち上げて見つめながら説教している。ベルは相変わらずつぶらな瞳で、無邪気な表情だ。
(あれで許されるなんて、羨ましい……)
 犬になりたいなぁと思いを強めていると天辻さんがけろっとした顔で言った。

「ねえねえ陽菜ちゃん、さっきから凄い物欲しげな目でベルを見てるけど、気に入った?」
「えっ……あ……ごめんなさい」
「可愛いワンちゃん欲しい? 実はこの子、10匹のうちの一匹なんだ」
「えぇっ!? そんなに飼ってるんですか?」

 陽菜ちゃんがびっくりした様子で言った。ちょっと頬を紅潮させて、興味津々という様子で身を乗り出している。
(陽菜ちゃんも可愛い生き物には目がないんだなぁ)

「そうなんだ、すごいでしょ。今度新しく子犬が産まれるから、陽菜ちゃん家にもあげようか?」
「あっ、欲しい……いいかな、お兄ちゃん?」
「え……いや、優美さんとか、父さんとかに聞いてみないと」
「あ、そっか」

 陽菜ちゃんはちょっと落ち込んだ様子。しょげた表情もまた可愛くて、もう、周りに可愛い生き物だらけで困ってしまう。
 僕は気になったことを聞いてみた。

「天辻さんは、どうしてそんなに犬飼ってるんですか」
「わたしね、動物大好きなんだ。人間と同じくらい。ていうか、生き物全部が好きなの。グラビア始めたのも、わたしのことを見て、いきいきした顔をする男の子たちを見てるのが、楽しいのもあるのかなぁ」
「いきいきした顔……?」
「うん。たとえばさ、こういうことをすると」

 天辻さんが急にもたれかかってきて、腕に優美さんレベルの巨乳が、ぽゆんと当たった。確信犯の目つきで、僕を見つめる。

「どう、感触のほどは?」
「あ、天辻さんっ!」
「ほら、そういうこと。そういう風に慌てる男の子、大好きだよ。あはっ」

 天辻さんは、そう言って悪戯っぽく笑うのだった。鼻の下が伸びた僕に、ベルは歯を見せて威嚇していた。

 そして陽菜ちゃんは、自分の胸に手を当てて、ちょっと不満そうな顔をしていた。

(つづく)













グラビアアイドルが義姉になった!! 妹・陽菜編「2話」





「ん……ちゅる……」
「れろ……んはぁっ」

 俺は至福の時を味わっていた。
 PCチェアに座った俺の足元に、美少女姉妹がぺたりと女の子座りしている。そして、ズボンをずり下ろして出てきた俺の肉棒に、二人して綺麗な顔を寄せているのだ。
 つまり、優美姉さんと陽菜ちゃんに、ダブルフェラをしてもらっていた。
 とろりとした唾液たっぷりの二人の舌が、ちろちろと左右から愛撫している。根本からカリ首まで、もう唾液まみれだ。

 優美さんが、温かい吐息を零しながら言った。

「陽菜、男の人は、先っぽのところをぺろぺろされると、一番気持ちいんだって」
「うん、わかった、お姉ちゃん……わたし、頑張る」

 優美さんが一旦離れて、代わりに陽菜ちゃんが先っぽに唇をつける。

「お兄ちゃん、いい?」
「もちろん……陽菜ちゃん。あぁっ……すごっ」

 陽菜ちゃんが徐々に温かいお口の中に、ちゅぷりと俺の息子を咥えこんでいく。

「ふ、二人とも……うあっ、すごすぎるっ」
「お兄ひゃん……ん、これで、あっへるよね? くふぅっ」

 不安そうに見上げてくる陽菜ちゃんの表情が、たまらない。
 陽菜ちゃんは半分ほど咥えると、口の中で、丁寧に亀頭をぺろぺろしてくれた。

「んちゅ……んんー……」
「そ、そこ敏感で……うわあっ」
「もう、直人。情けない声出しすぎ。妹の前なんだから、もっと頼れるお兄ちゃんとして振る舞って」
「そんなこと言われてもっ! 陽菜ちゃん、すごく上手になっててっっ!」
「たくさん三人で練習したおかげね、陽菜」
「うん……んっ……んっ」

 陽菜ちゃんは、真面目にカリ首のところを何度も舐めまわしている。
 こんなに可愛い、優美さん似の美少女女子高生にしゃぶってもらえて、きっと俺の息子も喜んでいる。
 きっと優美さん姉妹が家に越して来なかったら、こんなことは絶対に起きなかった。幸せだ……

「陽菜、そろそろ先っぽ、交代する?」
「んー……ん」

 陽菜ちゃんはサラサラの髪を揺らして首を振った。
 射精するまで、続けてくれるらしい。陽菜ちゃんの健気さが、嬉しすぎた。

「最後までして、ごっくんもしてみる?」
「んぅ……」

 こくんと頷いて、俺のことを見上げてくる。交代しなくていい? と俺の意見にも耳を貸してくれている。

「陽菜ちゃん……もちろんっ! 陽菜ちゃんでイカせてっ!」
「それじゃ陽菜、もっと深くまで咥えて、ちゅぽちゅぽしちゃおっか」
「ん……ちゅ……」

 本当に、陽菜ちゃんはゆっくりとお口でピストンし始めた。
 陽菜ちゃんの小さな唇が、根本を一生懸命しごきあげて、先端は涎たっぷりの口内に潜っていく。
 流れてくる髪を耳の後ろにかき上げて、丁寧にしゃぶりあげる様子は、可愛くて仕方なかった。

「陽菜ちゃん……もうダメだっっ! イクっっ!」
「ん……んるぅっ!? ん……んんっ!」

 びゅる……ぴゅっ……びゅるるっ!

 射精に合わせて、陽菜ちゃんが驚いた顔をする。こく、こく……と喉が動いて、飲み込んでくれているのがわかる。
 時間をかけて脈動がおさまると、陽菜ちゃんはゆっくりと俺の息子を口から引き出していった。
 顔を上げて、頬を赤くして言った。

「こくっ……お兄ちゃんの、ねばねば……してた」
「ひ、陽菜……飲んじゃって、大丈夫なの?」
「うん……お兄ちゃんのなら、もう平気……」

 消え入りそうな声で言って、上目づかいで微笑む陽菜ちゃんはメチャクチャ可愛かった。

「陽菜もフェラ上手になったわね。直人、すごく気持ちよさそうな顔してた。わたしびっくりしちゃった」
「うん……お兄ちゃんに喜んでもらえるようになった」
「それで、本番のHのほうは、二人だけで出来るようになった?」
「いや、ええと、そのことなんだけど」

 基本的に、僕たち三人はさっきみたいに仲良く3Pしていた。
 でも、時々優美さんと二人だけでHしたり、陽菜ちゃんと二人だけですることもある。

 問題は、陽菜ちゃんと二人でするときだ。実は、日名ちゃんの男性恐怖症は完全には治っていなかった。
 優美さん無しで、俺と二人きりだと、うまくH出来ないのだ。

「陽菜ったら、ちゃんと一人立ちしないとダメって言ったじゃない。このままじゃ、いつまでもお姉ちゃんが一緒にいないといけなくなっちゃうよ」
「でも……無意識に、緊張して」
「うーん。少しずつ慣れるしかないわね。仕方ないから、今日もわたしが手伝ってあげる」
「お姉ちゃん……」

 陽菜ちゃんは嬉しげに、ちょっと顔をほころばせた。やっぱり優美さんのことが好きなんだなと思った。
 二人はベッドのもとへ向かったかと思うと、仲良く抱き合ってベッドによこたわる。
 腕で、お互いの背中を優しく撫であっている。
 百合百合した目の前の光景に、股間はフル充填だ。二人はそっと囁いた。

「陽菜、リラックスだよ」
「優美……おねえちゃ……んっ」

 陽菜ちゃんが優美さんのIカップの胸に顔をうずめると、優美さんはそっとその指を、陽菜ちゃんの太ももの間へと潜り込ませている。
 すぐに陽菜ちゃんのかすれるような喘ぎ声が聞こえてきて、僕は鼻息が荒くなった。

「あ……お姉ちゃん……そこ……」
「言ったでしょ? 陽菜の気持ちいい所はお見通しだって。もっと力抜いて、気持ちよさに身を任せるの」
「うん……あ……」

(ダメだ、はやく挿入したい!)

「優美さん……もう、いいですかっ!」
「うん、そろそろいいよ。ほら陽菜、お姉ちゃんがここにいるから、安心して。直人、そっと入れてあげて」
「はいっ」

 優美さんの胸に顔をうずめたままの陽菜ちゃんの制服スカートをめくる。
 可愛いパンツをそっと下ろして、ピンク色の割れ目を確認した。鮮やかなピンク色で、てらてらと愛液が光を反射している。
 そっと僕の分身をあてがって、そのままゆっくりと挿入していく。
 砲身がぬめぬめした粘液で擦られて、たまらない快感に痺れた。
(気持ちよすぎるよ、このおまんこ……! キツキツで、締め付けてくる!)

「うあ……陽菜ちゃんの、ナカ……っ!」
「ん、あ……きた……痛っ!」
「陽菜、大丈夫だよ。直人とエッチ出来るように頑張ろう?」
「うん……でも……痛い……」

 陽菜ちゃんは相変わらず優美さんの胸に顔をうずめて、苦しそうだ。
 その間に僕は陽菜ちゃんの狭いおまんこの奥まで肉棒を突き込んでいる。根元まで女の子の中に埋まると、全体が刺激されてめちゃくちゃ気持ちいい。
 全身がぞわぞわするような快感で、ぶるっと震えた。

「陽菜ちゃん……動いていい? もう、動きたくて仕方ないよ……!」
「だ、ダメ……痛い……抜いてよぉ」
「そうかしら……直人、仕方ないか。今日も失敗ね」
「で、でも僕、まだ出してない……我慢できないんです! 陽菜ちゃんのナカ、凄くて!」
「安心して、直人。ちゃんと射精するまで、わたしがファンサービスするから」

 陽菜ちゃんから引き抜くと、ぬるりと愛液まみれの肉棒が現れた。ガチガチに勃起していて、はやく精液を出したそうにヒクヒク震えている。

「元気なおちんちんなんだから……焦らなくても、ちゃんとイかせてあげるよ」

 優美さんは、僕の息子にひたりと手のひらを被せ、きゅっきゅっとしごき始める。
 陽菜ちゃんのぬるぬるした愛液が滑って、なんとも言えない気持ちよさだ。
(陽菜ちゃんのおまんこ汁で、優美さんの手コキ、たまらない……!)
 予想以上に速いペースで、僕は高まってしまった。優美さんはそんな弟を見て、愛おしそうに笑っている。

「もうイキそう? 我慢しなくてもいいから、全部出しちゃおう」
「あ……やばい、もう、出ますっ! ……うっ!」

 びゅるっ! びゅるるる……!

 優美さんは射精の瞬間にぎゅっと握ってくれて、まるで搾られるような感覚に、天にも昇る気持ちだった。
 恍惚としてしばらくぼんやりしていた。
 やっと戻ってくると、目の前に反則的なエロさの光景があった。
 グラビアアイドルにとって大事なモノ、つまり優美さんの綺麗な顔に、僕の白濁した牡汁が、飛び散っている。
 優美さんはちょっと怒って言った。

「また顔にかけちゃって、もう……これからお仕事なのに。シャワー浴びてる暇ないし、直人君に精子かけられちゃった身体で撮影しないといけないじゃない」
「ご、ごめんなさい」
「でもいいよ。直人君に興奮してもらえるの、嬉しいから」
「優美さん……」

 僕は優美さんと見つめ合って、お互いに火照った顔で微笑みあった。
 陽菜ちゃんは、そんな僕たちを見て、複雑な心境を抱えているようだった。


(つづく)














グラビアアイドルが義姉になった!! 妹・陽菜編「一話」





……
グラビアアイドルが義姉になった!の続編です。
……

 学校から帰ってきて、PCを操作していると、コンコン、と俺の部屋のドアをノックする音が聞こえた。

「直人、入るよ?」
「どうぞ、|優美《ゆみ》姉さん」

 優美さんが部屋に入ってきた途端、部屋が華やいだ気がした。
 夏っぽい服装だった。ノースリーブのトップス、ふんわりしたミニスカートを着て、無防備に爪先まで生足を見せている。

 湊優美、20才。瑞々しさの中に色気も持ち合わせ、Iカップの巨乳で見る者を誘う、グラビアアイドル業界で100年に一度の逸材と呼ばれる期待の新人だ。グラビアが趣味の僕は、優美さんに夢中だった。
 驚くことに、その優美さんが、色々あって俺の義姉になった。湊優美は、仕事上での名前になり、本当の名前は|上坂《こうさか》優美だ。
 俺にとって、優美さんがお姉さんになるだけで十分嬉しいけど、それだけではなかった。実は、俺と優美さんは特別な関係なのだ。
 あの夜を思い出すたびに、幸せすぎてにやけてしまう。

「今日は午後から撮影のお仕事だけど、それまで一緒に居ようね」
「優美姉さん……」

 優美さんは俺に背後からそっと抱き着いて、ふふっと笑った。
 背中に当たる柔らかい感触と、長いストレートヘアから漂ってくる素敵な匂いで、頭がぼおっとしてしまう。
(優美姉さん……無防備すぎます)

 再び、ドアがノックされた。続いて少し控えめな声が聞こえた。

「お兄ちゃん……? DVD持ってきたよ」
「ありがと、|陽菜《ひな》」

 もう一人入ってきたのは、優美さんが幼くなったような見た目の女の子だった。
 白く清潔な半袖ワイシャツと、紺色のプリーツスカート……高校の制服姿だ。なんとなく怯えたような上目づかいが、か弱い感じで可愛い。
 
 湊陽菜、16才の女子高生。優美さんと同レベルの美少女だけど、優美さんと違ってスレンダーな女の子だ。
 特に胸がちっちゃい。顔つきもまだまだ幼く、優美さんの持つ色気はなくて、清純なイメージが際立っている。

 俺にくっついた優美姉さんを見て、ちょっと顔を赤らめた。

「あ、あんまりベタベタしちゃ、ダメだよ……」
「このくらい、いいでしょ? 陽菜も、もっとお兄ちゃんに甘えればいいじゃない」
「でも……男の子、やっぱりまだ怖い……直人お兄ちゃんでも」

 陽菜ちゃんには若干男性恐怖症な部分がある。陽菜ちゃんは俺と会うまで、女三人家族で暮らし、女子校に通っていたせいらしい。
 そんな陽菜ちゃんとも、今俺は特別な関係だ。俺はこんなに魅力的な義姉妹二人を、独り占めしていた。
 あの夜以来、陽菜ちゃんの男嫌いは少し改善したけど、まだ完全には払拭しきれていないみたいだ。

 陽菜ちゃんはあるDVDを持ってきていた。ジャケットには優美さんともう一人他の女の子が、メイド服を着て微笑んでいる。

「「優美と|涼音《すずね》がご奉仕します!」……このDVDであってる? お姉ちゃん」
「そうよ。持ってきてくれてありがと、陽菜。それじゃ、早速始めちゃおっか」

 実は、優美さんの新作グラビアが発表されるたび、こうして皆で鑑賞会をしているのだ。
 きっかけは俺一人でこっそりお気に入りの優美さんのグラビアを見ていた時だった。部屋に入って来た優美さんに見つかってしまった。

「本物がここにいるのに、動画で満足しちゃうんだ……」
「ち、違うんですってば! こっちの優美さんは別腹で大好きなんです」
「そんなに気に入ってもらえてるの? ……もしかして、まだ一人でシコシコしてる?」
「し、してないですよ……その分は、ちゃんと優美さんと陽菜ちゃんに取っておいてますってば」
「ほんとに? ふふ……信用できないから、今度からわたしの新作は皆で見よっか」

 こんなやり取りの後、陽菜ちゃんまで巻き込んで、いつも上映会をやっているわけだ。

 俺がPCにDVDをいれると、優美さんが部屋の電気を消した。カーテンを閉めると、部屋は昼さがりの光を遮られて薄暗くなった。三人で並んでベッドに座ると、そこは小さなシアターに早変わりする。

 優美さんはそれが当然のように、真ん中に座った俺にぴったりくっついて腕に抱き着いてきた。またもや豊満な柔らかい感触が当たって、すぐに股間が反応してきてしまう。

「ゆ、優美姉さん、当たってますって……」
「もう、気にしすぎだよ。姉弟なんだから」
「が、我慢できなくなっちゃいますって……」
「万が一そうなっちゃっても……心配いらないでしょ?」
「優美姉さん……そんな」

 ちょっと悪戯っぽく囁く優美姉さんに、悩殺されそうになる。
 俺はさっそく暴れそうになる性欲を、必死に抑えた。ダメだ、映像に集中できる自信がない。

「お姉ちゃん……ダメだってば」

 一方陽菜ちゃんはまだそういうボディータッチに慣れていないので、隣で恥ずかしそうな顔をしている。きっと俺と優美さんがイチャイチャしているのを見るだけで恥ずかしいのだろう。清楚な陽菜ちゃんらしいところだ。
(こんな美少女たちに囲まれてグラビア見れるなんて、幸せだ……)
 優美さんは俺が手にしたパッケージを指さして言った。

「ねえ直人、この涼音って子、知ってる? グラビアマニアの直人なら、知っててもおかしくないかと思うけど」
「涼音? 聞いたことないな……新人ですか?」
「そう。今わたしが一番仲良しな女の子なの。この仕事の時一緒になってから、たまに二人でご飯食べたりするの」
「新人……優美さんの二歳下、高校三年生か……俺より年上じゃないか」

 そこには女子高生らしさの残る体型・顔つきのショートカットの女の子がカメラ目線ではにかんでいた。
 この子も中々お目にかかれないレベルの美少女だ。髪型のせいか、ちょっとボーイッシュな感じだ。自信ありげな瞳に、なんとも言えない魅力がある。
 そしてなにより、胸が大きい。まあこの業界では当たり前のことだけど、それでもこの可愛さで、この胸の大きさ……
(これは、新たに俺のお気に入りの女優に登録されるかも……)

「直人はこういうタイプの子、好き?」
「けっこう、好きかも……あ、もちろん優美さんが一番です」
「ふふ、ありがと。そろそろ読み込み終わったわね」

 動画が始まると、さっそくモノトーンのメイド服を着た優美さんが画面の中に現れた。
 フリフリの可愛いメイド服だが、めちゃくちゃ肌色成分が多かった。肩が出ていて、胸元も大きく開いて、柔らかそうな谷間が露わになっている。さらにスカートはやたら短く、すでにお尻に食い込んだ白いパンツが時折見えてしまっている。
 そのメイド服は、その身体を最大限引き立てているように見えた。
 床をモップで可愛い仕草でお掃除したり、雑巾でテーブルを拭いたり、お盆にコーヒーカップを載せて持ってきて微笑んでくれたり……そうするたび、乳揺れしているのがよくわかるのが最高だ。

「うわ……もう、たまんないです」
「こういう萌え萌え~っとしたのも趣味なのかな? わたしも可愛いお洋服は大好きだし、今度、そういうコスプレ衣装も集めてみよっか。陽菜もお揃いでどう?」
「わたしは……こんなの、恥ずかしいし……あ、でも、お兄ちゃんが好きなら……」

 陽菜ちゃんは俺の顔をチラチラ見ながら、顔を赤くしている。

「それじゃ、とびきり露出の多いやつ、陽菜にも買ってくるね」
「お姉ちゃん! や、やっぱりヤダ!」
「陽菜は恥ずかしがりなんだから……わたしなんて、あんなことしちゃってるんだよ?」

 画面の中では、ソファの上でエロティックなポーズを決めている。
 優美さんはお尻をこっちに向けて、モップにまたがっていた。ローアングルから、傷一つない足首からお尻までのむちむち感を一つの画面で写している。しなやかに背中を反らして、なんとも言えないエロさだ。
 セクシーな表情でカメラを振り向いて、優美さんが眉を寄せて「ご主人さま、ダメですよ……」と呟く。

 隣の優美さんが照れたように言った。

「そんな風に前のめりで見られると、ちょっと恥ずかしい」
「あっ」

 気づくと俺も陽菜ちゃんも、画面に食いつくようにして鑑賞していた。二人して同じことをしていて、まるで本当の兄妹みたいだと思った。

「直人も陽菜も夢中になって見てくれてて、お姉ちゃん嬉しいけどね」
「だって、お姉ちゃん、すっごく……綺麗で」
「そんなに褒められると、困っちゃう」

 優美さんの見せ場が終わると、もう一人のグラドルが扉から入って来た。
 |天辻涼音《あまつじすずね》。パッケージの説明にはそう書いてある。さっき話していた優美さんの後輩だ。画面の中で、何やら不満そうな顔をこちらに向けている。

「ご主人さま、わたしも相手してくれないんですか」

 ちょっと小生意気な言い方だが、それが表情や雰囲気とマッチしていて、なかなかよかった。
 優美さんと同じメイド服を着ている。動画で見ても、優美さんにひけを取らないほど豊かな胸の持主で、俺はますます興味を引かれた。
 二人はさっそく向かい合わせに抱き合って、おっぱいをくっつけあい始めた。柔らかそうな感触が、見ているだけで伝わってくる。
 優美さんと鈴音さんはお互いふざけあうように、笑いながらこっちを見ている。涼音さんは笑顔を浮かべ始めるとなかなか可愛い。
 二人はそのうち、ソファで抱き合いながらゴロゴロし始めた。時折、くすくすと笑う優美さんと涼音さん。女の子二人だけの、美しくて甘い空気感が伝わってきて、なんというか見惚れてしまう。

 グラビアビデオが終わると、優美さんは早速感想を聞いた。

「どうだった? もしダメだったところがあったら言ってね。直人の意見、全部叶えてみせるから」
「完璧ですよ……もう、文句なしです。あ、涼音さんもなかなかいいと思いました」
「ね、可愛いでしょ? わたしも涼音ちゃんはおススメだよ。初出演なのに、全然緊張してないのはマイナスだけどね。もっと初々しいほうがいいのかも」
「でもこの可愛さで、業界トップレベルの優美さんと共演って、絶対これから売れるじゃないですか……」
「そうなるかもしれないね。そうだ」

 優美さんは突然、思い出したようにスマホをいじってスケジュールを確認しだした。

「今度、また涼音ちゃんと共演することが決まってるの」
「そうなんですか」
「ええっと……そう、今度の日曜日、南の島で撮影があるの。すっごく綺麗なビーチだよ。ほら」

 優美さんのスマホには、透き通った青い海、白くさらさらしていそうな砂浜の写真が表示されていた。まさに南国と言った感じだ。

「いいですね……また優美さんの新作がこんな綺麗な景色の中で……」
「それでね、いいこと思いついちゃったんだけど、直人も陽菜も、飛行機で一緒に来ない?」
「え!? 画面越しじゃなくて、ほんとの撮影風景を見せてくれるんですか?」
「だってわたしたち、姉弟だし、立ち会いくらい許してもらえると思うよ」

 突然もたらされた幸運に、どう反応していいかわからない。段々と、高揚感が湧き上がってくる。
 めちゃくちゃ嬉しかった。思わず頭を下げた。

「優美さんの生グラビア見放題なんて……最高です! ありがとうございます!」
「そんなに喜んでもらえると思わなかった。直人ったら……ほんとにグラビア大好きなんだね」

 優美さんは嬉しそうな笑顔を浮かべていたが、一転、僕の顔を近くから覗き込んで言った。

「でも、グラビアのわたしばっかり見てちゃ、嫌なんだけどなぁ……だって、あれはお客さんのために演じてるわたしだから。本物のわたしは、直人にしか見せてないんだからね?」
「ゆ、優美さん……」
「優美姉さん、でしょ? 今ここにいるわたしはグラビアアイドルの湊優美じゃなくて、直人の姉の、直人だけの上坂優美だよ」

 そんな嬉しいことを言われながら微笑まれたら、たまらなかった。
 ドキドキと胸の拍動がはやくなり始めた。息子がうずうずしだすのが、わかる。
 実はずっと、ビデオを見ている最中から、勃起し始めていた。見ると、完全に制服ズボンにテントが張ってしまっている。
 僕の目線を追ってか、優美さんもそれに気づいたようだ。

「興奮しちゃったんだ……ねえ、グラビアのわたしと、ほんとのわたし、どっちで興奮したの?」
「両方ですよ……」
「ふふ、ありがとう。お姉ちゃんに、何かしてほしいことはある?」
「あの……ファンサービスしてください! お願いしますっっ!」
「仕方ないんだから……直人だけ、特別なんだからね」

 背後から、陽菜ちゃんが恥ずかしそうに言った。

「お、お姉ちゃん……」
「陽菜もしたい?」
「えっ……わ、わたし……わたしは……」

 陽菜ちゃんは、一生懸命葛藤していたけど、結局小さくこくんと頷いた。

「わたしも……ちゃんと、お兄ちゃんとエッチなこと、できるようになりたい」
「もう、二人とも、いつかは、ちゃんとお姉ちゃん以外の女の子と付き合わなきゃダメだからね?」

 なんて幸せなんだ、と思いながら、未だに緊張が抜けなかった。自分がこんな美少女姉妹を犯すことのできる身だなんて、やっぱり夢みたいだ。




<妹姫・三話>姫と姫騎士の学園




 前世の記憶が全て蘇り、はっと我に返る。

「ご主人様? いかがなさいました?」
「そうだ、思い出した! これまでのこと、全部思い出したよ、ウィルベル」

 体中、鳥肌が立っていた。現在は次期皇帝の俺はついさっきまで、何の変哲もない男として、平凡で退屈な人生を送っていたのだ。

「まるで人が変わってしまったようなお顔です……」
「ああ、その通りだよ。ウィルベル、君の本当のご主人様は、コイツなんだから」
「はい?」

 胸に抱えた子猫を、持ち上げてウィルベルに見せてやった。
 しかし、彼女は小さい手足をばたつかせる猫を目前に、きょとんとするのみ。
 口で説明してやろうとすると――

「にゃう」
「痛っ!」

 かぷりと指をかまれた。同時に、声が聞こえた。いや、むしろ聞こえるというより、頭の中に響くよう。

――バカ! 言うなよ!

 ようやくわかった。これは、レイジのテレパシー。
 俺も頭の中で返事してみる。

――なんでだよ。ウィルベルに嘘つく必要あんの?
――中身が入れ替わってることが知れたらまずいんだ! ウィルベルだって告げ口しないとも限らない!
――お前はそれでいいの?
――女の子に関わらないで済むならこっちの体のほうがマシだね。

 風変わりな皇子もいたもんだ。
 手元のその子猫がにゃうにゃう鳴くのを見て、ウィルベルはふにゃふにゃ頬を緩めている。

「かわいい……」
「ウィルベル?」
「……はっ! 失礼しました!」
「とけそうな顔してたけど大丈夫?」
「は、はしたないところをお見せしました」
「取り込み中すまんが――くしゅん、その、お願いだからその子をわたしから遠ざけ――くしゅ」

 困り顔で話しかけてきたのは、騎士のクリスティーユ。くしゃみが止まらないのに加え、目もかゆそうにしょぼしょぼ瞬いている。

「悪いけど、この子は置いてけない。俺の警護はもう大丈夫だ、クリスティーユ。また後で会おうぜ」
「か、閣下……?」

 俺は戸惑うウィルベルを連れ、呆然とするクリスティーユたち騎士団一行を置いて学園の校舎へと進んだ。

「こいつを飼うことにしたよ、ウィルベル」
「あの、騎士団の方々がお困りのようなのですが――」
「ほら、この猫、可愛がってやりな」
「え、あ……すごい、ふわふわですね!」

 ウィルベルに子猫を渡すと、ぱっと笑顔が広がる。騎士団のことなど忘れ、にゃんこに夢中になった模様。

「子猫をお世話するの、夢だったんです! あの、この子……お名前をつけてはどうでしょう?」
「へえ、どんな名前がいい? ウィルベルの好きなようにどうぞ」
「スミレなんてどうでしょう? ちょうどスミレの花畑から現れたので」
「じゃあそれでいいんじゃね」

 子猫を手渡すと、ウィルベルは普通の少女のように微笑んだ。

「わあ……こんなに、顔がちっちゃい」

 おそるおそるスミレの頭を撫でるウィルベル。
 しかしその時、頭上から腹に響くような低い音が響く。
 どうやら鐘の音のようだ。
 見上げると、遥か高く、城の頂上の鐘楼で、結婚式場にありそうな金色の鐘が揺れていた。

「あぁ、時間! 遅刻です、ご主人様!」
「え、そうなの」
「わたしが子猫なんかにかまっていたせいで……すみません。少し急ぎましょう!」
「まあ遅刻しても怒られないでしょ、俺の地位身分なら」
「確かにそうなんですが……他の生徒さんたちに迷惑がかかりますから」

 俺は少し歩くスピードを上げて、建物へと踏み込んだ。

***

 メイドと白人男の姿を、城の最上階、ある小部屋から見下ろしている少女がいた。年の程は、十七くらいに見える。
 口に手を当て、欠伸を押さえた。
 本来滑らかな黒髪に、今は寝ぐせがついていて、まだ寝間着を身に着けている。彼女は透き通った声で、そっと呟いた。

「あの男の人が、わたしの運命の人……なのでしょうか」
「そうだ。それが皇族のしきたりだし、占術師もそう予言している」
「わっヘーゼル先生! いたの? びっくりしました。いきなり部屋にはいってこないで」
「何を言っているの? ここはわたしの部屋でしょう。仕事の邪魔をしていることくらい、自覚してほしいわ」

 ヘーゼルと呼ばれた彼女は大人の女性だった。皺のないスーツのような衣服を着て、その上にマントを羽織っている。豊かな胸にかかる銀色に輝く長い髪は、天然のゆるいカールがかかっている。
 その声はどこかひんやりとした響きを持っているが、それは彼女のぶっきらぼうな性格を表したもので、心の根は温かい。

「ごめんなさい……いつも部屋を転々としているから、感覚が薄れていました。それより先生、疲れてる?」
「そうよ、昨日は夜遅くまで作業していたから。明日までに、この膨大な量の古代資料を読み解かなければならないの。マリ、よければ手伝ってくれる?」
「悪いのですが……わたし、今日は始業式で」
「そうだった? もうそんな時期!?」
「もう、先生は仕事にのめり込むと帰ってこれなくなるんだから」
「のめり込まないと処理しきれないの……回復薬浸けで、もう何日も一睡もしてないんだから」

 ヘーゼルは王族ではなかった。平民の地位ながら、古代文字を勉強し、学問の力でイディアル学園の教授へと上りつめた。
 机の上の未解読の古代書の山を片付けるべく、彼女は椅子に腰をおろす。
 眼鏡をかけて作業を始めるが、それでも目の前の黒髪の少女はぼんやりと空を見ているので、彼女は一応訊いておいた。

「マリ。始業式、行かなくていいの?」
「ふふ、わたしは遅れても怒られないんです」

 天真爛漫な笑みを浮かべて、姫は答えた。

「皇女たる者がこの有様か」
「だって……」

 そう言われても、皇女はつぶらな瞳を曇らせるのみで、ベッドから動こうとしない。

「帝国も先が思いやられるな」
「もう、ヘーゼル先生、そんなこと言わないで。この国が滅びるわけないでしょう? わたしはこのイディアル帝国が大好き。常春の気候、善良な民、そしてわたしたち王族の魔術の恩恵を受け、栄える街。滅びるなんて、そんな心にもないこと、言わないことです」
「全く、世間知らずの姫はこれだから困る……」
「どういうことですか? ヘーゼル先生」

 そう大真面目に訊いた途端、

「マリっ! いるっ? わたし、アリス! 迎えに来たよっ!」

 太陽のように元気で明るい声がドアの鈴が鳴る音と同時に聞こえた。声が耳に入るだけで、気分がよくなるみたい。そう、マリは思った。

「国はどうでもよくても、友達は大事だろう?」
「……もう、わかったよ。今行きます、アリスちゃん」

 二人に背中を押され、ようやくマリはうんと背伸びをして、着替えを始める。

***

 城に入った途端、花園とはまた違う、甘いような匂いが鼻孔をくすぐった。
 どこかで、こんな香りを嗅いだことがある。記憶をたどってみる。
 思い出した――そう、この香りは、例の幼馴染みの女の子の家に遊びに行った時、部屋に染み付いていた香り。

「女の子の匂い……やばい興奮してきた」
「昨日まで性欲ゼロだったご主人様がそんなことを言うなんて……ウィルベルは光栄です」

 城はびっくりするくらい広く、迷路のように廊下はいりくんでいた。
 螺旋階段をテンポよく上がり、荷物と猫を抱えたウィルベルについていく。
 廊下の突当りを曲がって、俺はそこにあるらしい教室へと向かったが――

「いたぁっ!」
「うおっ!」

 何かと正面衝突した。
 俺は踏みとどまったが、相手は勢い余って地面に尻もちをつく。
 倒れているのは、学校制服姿の女の子だった。いや、似ているけど学校制服ではない。
(軍服か……?)
 肩のところが金色の肩章で飾り付けられている。転生前の現実世界ではありえない、派手な制服。意外と、プリーツスカートと似合っている。
 その女の子は見たところ、高校二年の、十七歳くらいだろうか。

「びっくりしたぁ……ごめんね、ぶつかっちゃって」

 彼女はしかめた顔を俺に向け、紺碧色の瞳の焦点を俺に合わせた。
 白金色の髪はセミロングで、頭の横に一つ作った結びがぴょんとアクセントになっている。ワンサイドアップというやつ。
 どこか世間知らずな感じの、素直な声で彼女は言った。

「ねえそれより、マリを知らない? ええと、皇女様の。あの子、待っててあげたのに先に行っちゃって、わたしが遅刻する羽目に」
「は? マリって誰? 皇女って?」

 野太い声で言うと、彼女は一瞬息を詰まらせる。澄んだ瞳を見開いて、口をぱくぱく。

「ああっ……れ、れ、れ!」
「れ?」
「レイジ様だあっ!」

 驚いた表情に、少しずつ笑みが広がっていく。

***

「みんなーっ! レイジ様の到着だよっ!」

 アリスが広い講堂中に聞こえるよう叫ぶと、その場にいた人々が、全員俺たちに視線を集めた。
 一拍遅れて、きゃあっ、と黄色い嬉しそうな悲鳴があがった。
 どれもこれも、中学生か高校生の女の子の声だった。
 そう、この学園には、女の子しかいないのだ!

「本当にあの方が、レイジ様?」
「偽物じゃないよね?」
「わあ! 初めてこんなに間近で男の人に会っちゃった!」

 高い声で喋る女の子たちは、みな制服を着ていた。それぞれ軍服風デザインの制服だ。
(どうなってんだこりゃ)
 可愛い女の子しかいない空間は、なかなか感動的だった。

「ノエル、こっちおいでよ! レイジ様だよ、ほら!」
「アリス、その人は……ほんとうにレイジ様なのです?」
「そうだよ。本物!」
「凄いです! お目にかかれて光栄なのです、レイジ様」

 興奮した様子のアリスが呼んだノエルという子は、頭部以外に甲冑を身に着けていた。
 ポニーテールにした薄い桃色の髪が、プレートアーマーの上にこぼれている。
(この世界、ピンク髪とかいんのかよ)
 クリスティーユたちと同じく下はスカート。青い目はぱっちりキラキラしている。可愛いけど、アホの子っぽい雰囲気を醸しているのが何とも言えない。凛々しい騎士鎧が全然似合っていないのだ。
 アリスと同じ、十七くらいに見える。

「君、名前はノエルって言うの?」
「そうなのです!」
「じゃあ、ノエル。一つ聞くけどなんで騎士鎧着てんの?」
「それは、ノエルがわたしの姫騎士だからだよ、レイジ様?」

 答えたアリスに訊き返す。

「なんだ姫騎士って。姫なのか騎士なのかはっきりしろ」
「ノエルは王族の姫でありながら、わたしに仕える騎士でもあるんだよ。ね、ノエル?」
「そうなのです! わたしはアリスに忠誠を誓っているのです!」
「ほう……一応理屈があるのか」

 ここは、お姫様が騎士をやる世界らしい。危なくないか、と考えていると。

「知らなかったの? 姫騎士だって、この国にとって重要な戦力じゃない」

 背後からまた、新しく女の子の声がした。どこか自信に満ちた響きの声。

「リナ! 凄いのです! かの有名なレイジ様が、わたしたちの学園にお越しになったのです!」
「レイジ様はみんなの憧れだものね」

 余裕を持った微笑みながら現れたのは、アリスと同じ制服姿の女の子。
 ライトブラウンの髪を、ハーフアップにしていた。ハーフアップというのは、髪の上部分だけをうしろで結び、下の髪はそのまま下ろした髪型。お嬢様結びと言ったほうがわかりやすいかもしれない。
(この子、なんか甘やかされて育った雰囲気醸してるな。いかにも姫っぽい)
 彼女は髪を指先でいじりながら、彼女は栗色の瞳を俺に向ける。

「お初にお目にかかります、レイジ様。わたしは、セイラ国の姫、リナと言います。よろしくね」
「おお、よろしく。俺って女の子たちの憧れなのか。リナは俺のファンなのか?」
「へっ!? わ、わたしは……」

 リナは誤魔化すようにノエルへと話を振った。

「ノエルはファンだよね? 以前帝国で馬車の中からレイジ様を見たとき、一目惚れしちゃってなかった?」
「ふえっ? わ、わたしは……そうなのです。レイジ様のこと、憧れていたのです!」

 ノエルは、一気に言い切った。少し頬を染めてキラキラした瞳で見つめてくる。
(女の子にこんな目線向けられたの初めてだ……)

「アリスもファンじゃなかったかしら?」
「え!? わたしは、うん……えっと、かっこいいと思ってました」

 赤面しながら、ちょっと目を反らされた。
 この会話のやりとりを見ながら心の中で思った。
(俺、思った通りモテてるな)
 鏡を見たときからいけると思っていた。第二の人生は、女の子とイチャイチャしながら過ごせそう。内心でほくそ笑む。

「ありがとう二人とも。嬉しいよ」

 表面的ではイケメンスマイルを浮かべると、周囲からきゃあっと黄色い声が上がる。目にハートマークを浮かべたような女の子たちばかり。アリスとノエルもぽっと頬を染めている。
(お姫様たち、ちょろいなおい)
 だがプライドが高いのか余裕を持っている子達も少数だがいる。そのうちの一人であるリナは背後から一人の女の子を引っ張ってきた。

「そうだサーニャ。学園一の秀才ちゃんは、男になんか興味ないの?」
「まったく……リナはそういう話ばっかり」

 呆れた口調でそう言うのは、金髪ツインテールの背の小さな女の子だった。中学生くらいに見える。
 この子は制服を着ている。瞳は薄青い。
 ジト目で言った。

「まるで発情期みたい」
「は? はつじょう、って何よ? 聞いたこともない言葉だわ」

 サーニャはぽかんとするリナに構わず、じっと俺を見つめ始める。俺の表情を窺いながら、ちょっと緊張した感じで喋った。

「初めまして。サーニャと言います。わたしはみんなより二才年下なので、レイジ様にとって後輩になります。ええっと、よろしくお願いします」
「ああ、よろしく」
「その、いきなりすぎるかもしれないですけど、レイジ先輩って呼んでもいいですか?」
「いいよ、サーニャ」
「あ、ずるいのです! そうやってサーニャちゃんだけ仲良くなって!」
「ふふん、いいでしょ。それにしても」

 瞳の奥がキラリと光った。

「これが、男性……初めて近くで見た」

 興味津々と言った感じ。ノエルやアリスとは方向の違う関心がありそう。なんというか、俺を研究観察対象にでもしたそうだ。

「じー……」
「おい、サーニャ?」
「じー……」
「あの、すみません……お傍を離れてしまいました。メイド失格です」

 脇からそっと会話に入ってきたのは、メイドのウィルベル。

「おお、お前か。今までどこにいたんだよ」
「スミレが逃げてしまって……やっと捕まえたんです」
「わあっ! その猫可愛いっ!」
「……確かに、可愛い」

 アリスからサーニャまで、皆の注目が集まる。
 スミレはウィルベルの腕の中、ぶるぶる震え、毛を逆立てていた。

――うわあああああああ! 女だらけだああああ! やめてよおおおお!
――は? お前、女が嫌いなの?
――女なんて生き物、消えてなくなればいいのに!
――お前変わってんな……

 総勢100人くらいの女子生徒たちが、俺の周りに群れている。そういう性格なら、この状況は地獄だろう。
 その震える子猫を嬉しそうに抱きしめているウィルベルに、疑問を小声で訊いてみる。

「それよりさ、さっきから気になってたんだけど、王族って、女しかいないの?」

 男を初めて見た、という言葉が多く聞き取れた。

「大体そうですね。王族の血脈には、今現在、あなたとあなたのお父様、二人の男性しかいません。「王家の呪い」によるものです。加えて姫君たちは、子を産む相手である皇帝にまみえるまで、男との接触をしてはいけないことになっています」

 王家の呪い……? 今はいいや、また今度の機会に詳しく説明してもらおう。

「ふーん……俺のためにウブな女の子たちが用意されてるんだな」
「ご主人様の好きにしていいとのことです。全員、ご主人様のお父様である皇帝の娘ですから、彼女たちは、腹違いの妹ということになります」

 妹姫が、100人いる!
 みたいな感じなのだろうか。ラノベでそんなタイトルがあったような、なかったような。
(とにかくすげえ世界に迷い込んじまった)
 現実との違いがありすぎる。あとで落ち着いた時、もう一回まとめてウィルベルかスミレに説明してもらおう。

「ところでレイジ様。そのメイドさんは誰なのっ?」

 アリスがウィルベルを見て言う。

「ウィルベルって言うんだ。俺専属のメイドだよ」
「へえ……よろしくね、ウィルベルさん!」
「いえ……わたしこそ」

 ノエル、リナ、サーニャもそれぞれ笑顔で挨拶した。

「ノエル様、訊きたいことがあるのですが」
「どうしたのです? ウィルベルさん」
「どうして、今騎士鎧を装備しているのですか? これから、霊魔法の講義ではないのでしょうか」
「違うのです。今日は始業式早々、一時限目から実習があるのです。グループを作って、すぐ近くのダンジョンで、軽めのクエストをこなすのです。絆を深め直すのが目的なのです」
「ああ、そういうことですか。失礼しました」

 ウィルベルは納得できても、俺はできない。知らないことが多すぎて困る。

「なんだ、クエストって」
「魔法や武器を使って、魔物たちを倒しにいくの。回数をこなすうちに腕があがるし、同行者との絆も深まる。学園の教授がクエスト内容を決めるんだけど、難しいクエストをクリアすれば、報酬もたんまり出るわ」

 リナの言葉に、ふーんと頷く。
 現世における「ハンマー&ソード」を思い出した。たぶん、あのゲームと同じように、リアルにモンスターでも狩るつもりでいれば問題ないかな。
 いっそ全部、「ハンマー&ソード」にあてはめてみよう。
 この城は狩人の出撃拠点で、姫たちは同行者。仕える武器はハンマーと剣だけではなく、魔法も加わる。
 うん、こう考えると、わかりやすいな。

「はーい、みんな、それくらいにしときなさい。レイジ様に失礼でしょう」

 そこに、大人の女性の声がかかる。
 見ると、教壇に教授とおぼしき人物が立っていた。銀色の髪を持ち、少し疲れて眠たそうな顔をしている。美人なおかげで、その半開きな瞳がどこか色っぽい。
 アリスが彼女を見てヤジを飛ばす。

「あ、ヘーゼル先生また遅刻っ!」

 そういう名前らしい。ヘーゼルはアリスをちらりと見て、謝った。

「教師のくせに、遅れてごめんなさい。仕事を一区切りつけたくて。
 これから早速、実習を始めるわ。クエストのやり方わかんない人は、上級生に聞いて。四人一組のグループ全員揃って、定刻までには城に戻ってくるように。さあ、それぞれのダンジョンに行きなさい」
「ヘーゼル教授、相変わらず眠たそう」
 
 欠伸をしてすでに講堂から出ていこうとしているヘーゼルの後ろ姿を見て、リナも心配そうにそんなことを言った。そこに一転、アリスの元気な声。

「じゃあわたし、自室で着替えてくるよ。一緒のグループになろうね、レイジ様?」
「ああ、いいよ」

 アリスは元気一杯で可愛いし、何も問題ない。

「あ、わたしも姫騎士としてアリスに付き添うので、同じグループなのです。よろしくお願いします、レイジ様」
「わたしもレイジ様と一緒がいいわ! ね、わたしもついていっていいよね? ノエル?」
「もちろんなのです。レイジ様、いいのです?」
「そうしよう」

 俺はアリスとノエルとリナと同じグループになった模様。他の女子たちはため息をついている。サーニャは他の女の子たちと約束があるのか、既にグループになって会話を始めている。
 期を一にして、ぞろぞろと、皆が着替えるため講堂から自室へと帰り始めた。
(つうかみんな何に着替えんの?)
 ま、よくわからんが、さっそくクエスト行ってみよう。いきなり女の子たちをレイプしなくても、いつでもチャンスはありそうだし、様子を見たほうがいいだろう。
 とか考えながらぼおっとしていると、ウィルベルに言われた。

「ご主人様も着替えるんです」
「そうなの?」

***

 俺は、軍服っぽい男性用制服に腕を通した。腰に装備した剣を触りながら、ゲームにあてはめて自分のステータスを考えてみた。

【ジョブ】 剣士?
【LV】 ?
【装備1】 そこそこ上質な剣
【装備2】 配給軍服
【スキル】 ?

 まだ全然、自分の能力がわかんないな。
(つづく)







<妹姫・2話>回想――転生前




 俺は、ネット小説「異世界転生したらガチのチート能力者だったから女の子を犯しまくったったwww」を最終話まで読み終え、深くため息をついた。
 とてもありきたりな物語だった。

「最近こういうのばっかりだなー」

 異世界転生。近頃流行るのはこのジャンルばかりだ。
 別に異世界転生が悪いとか、もう飽きた、とか言いたいわけではない。確かに異世界転生は魅力的なジャンルだ。つまらない現実世界を飛び立ち、ファンタジックな世界でやりたい放題したり、人生をやり直したりする物語は、読んでいて楽しい。
 既存のゲームの内容と照らし合わせ、文から映像が想像しやすいのも強いところ。

「でもさー、とりあえず転生すれば人気出る、みたいな風潮どうなのよ」

 たった今読んだネット小説「異世界転生したら(略)」は、かなり評価が高く、サイトのランキングでわりかし上位に挙がっていた。だから、読んでみたわけだ。
 しかしだ。
 どんなものかと蓋を開けてみれば、駄作の部類だった。
 ストーリーには構成というものがある。こういう伏線を敷いておいたからこういう展開が可能、とか、一貫してこういう設定だからこういうシーンが描ける、とか。
 そういった構成が皆無であることに加え文章がまるで中学生が書いたかのようだった。とりあえず格好をつけたいようで、難しい表現を多用、もしくは誤用している。そのくせに、ところどころ意味不明な表現があるところが、イタい。
 更新された最終話は打ち切り漫画のようだった。まあ、エタらなかっただけましか。
 しかもだ。

「最後いきなりあんな展開ぶちこんでくるとかないわー」

 次話はエロシーンだと見込んで用意しておいたパソコンの脇のティッシュ箱は、未使用のまま。まあそれはそれでいいことかもしれないけど。

「言ってしまえばエロけりゃいいんだろうけどさ……このレベルであのランキング上位かよ。衝撃の展開、とかもどちらかというと不必要なんだけどな」

 もとをただせば、エロ小説。エロいシーン以外に興味はない。要らないシーンで肝心のHシーンまでぶち壊しにされては、元も子もない。
 どうして、こんな作品が高評価なのかわからない。
 たぶん、「異世界転生」の言葉に釣られて、小説の良し悪しが見えていない読者が、たくさんいるのだろう。

「まあさ、こんなこと言っちゃってる俺はもっと面白い小説書けるかって言ったら、そうでもないんだけどね」

 そもそも無料で読ませてもらっているんだから、文句を言う権利なんてない。ましてや堂々と作者を貶すメッセージを送るなんて論外だ。
 俺は他に誰もいない部屋で独りため息をつき、うんと伸びをした。パソコンを閉じて、暗い部屋を出る。

***

 夕飯の支度を独りでしながら、転生したいなぁ、と思う。

 別に俺は異世界転生というジャンルを貶しているわけではない。むしろ、どちらかというと好きなジャンルだ。異世界に行って、人生やり直せたらどれだけいいだろうな、と真面目に考えるくらいに。
 
「こんなクソみたいな現実、消えてなくなればいいのに」

 また呟いた。独り言が、癖になってきているようだ。
 今の生活のどの辺がクソみたいかと言うと、まあほとんどがクソだ。
 安い時給のバイトでその日暮らし。そのくせに労働時間は長い。老人だらけのアパートに帰ってきても、自分の部屋では誰も待ってくれてはいない……。

 俺みたいな貧乏人にとっては、ネット小説を読んだりゲームしたりする時間が、一日で一番幸せな時間なのだ。

「よし、出来上がりかな」

 俺は、狭くて小汚いキッチンで、スーパーの特売で買ってきたクソ安い肉や野菜を炒めているところだった。
 皿に適当にフライパンの中身をぶちまけて、ぎしぎし軋むテーブルの上へと運ぶ。
 薄汚れた窓ガラスから外を見ると、もうほとんど日が暮れかけていた。
 ぼんやり眺めていると、しだいに太陽は地平線の向こうに飲み込まれていき、紫色の闇が、あたりに落ち始める。

「また一日が終わるのか」

 さっきからこうやって改めて自分の境遇を考えるのには、わけがある。
 特売肉と特売野菜を、車に補給するガソリンのように口の中に突っ込みながら、俺は小さくて画質の悪いテレビの電源をいれた。
 実は、俺の幼馴染の女の子がテレビに出るらしいのだ。
 リモコンで、チャンネルを変える。彼女が出演するドラマが放送されるチャンネルに。

「あ、いた!」

 さっそく、懐かしい面影のある顔が出てきた。
 間違いようもなく、彼女だった。眉目秀麗、笑顔が明るく、おとなしいお嬢様的雰囲気の彼女は、素晴らしく画面に映えていた。今まさに人気急上昇中なのも、うなづける。
 ドラマの中で、彼女はヒロインをやっていた。主人公役の男と仲良くしているのを見ると、気分が沈む。
 なぜかって、俺はその娘が好きだったからだ。

 おとなしくて、いつも俺の話を笑顔で聞いてくれるいい娘だった。
 外見は、深窓の令嬢みたいに慎ましく優雅だった。長い髪はさらさらと絹のように滑らかで、漆のように黒く、輝きがあった。
 胸は適度に大きくて、上品な印象を崩していない。全体的にみると、スレンダーなモデル体型をしている。

 記憶の中の彼女と、画面の中の彼女を照らし合わせていると、ドラマは急に彼女と主人公だけの場面になった。
 夏空に花開く大輪の花火のもと、ヒロインである俺の幼馴染は、その男に熱い視線を向けている。浴衣姿はその清楚な印象とマッチしていて、きっと今現在、日本中の男どもが彼女の姿を食い入るように見ているだろう。
 大体、この後の展開が予想できた。
 きっと彼女は、この主人公と……

「やっぱつまんね」

 画面の向こう側で何が起ころうが、俺には関係ないこと。
 自分で物語を体験できたら、いいのになと思う。

「ダメもとで、彼女に告白でもしとけばよかったのかな」

 俺は呟いて、キスシーンの前にテレビの入力を切り替える。
 
***

 一つの思いに、頭が支配されている。

「あの娘は人気女優にまで上りつめたのに、俺は一体何やってるんだろうな」
 
 今更どうにもならないことだ。俺は深くため息をつき、布団にもぐりこみ、頭だけ出して、ゲームのコントローラを握る。
 テレビ画面で起動したのは、「ハンマー&ソード」なるMMORPG。内容は次のようなもの。
 クエストに現れるモンスター主にワイバーンを倒し、経験値や仲間との好感度を上げ、主人公のレベルを上げていく。
 レベルが上がれば、さらに上級のクエストへ挑むことが出来るようになる。強いワイバーンの素材で強い装備を製造し、狩人として頂点を目指す。

「ふぁ……ねむ」

 このゲームはかなりやりこんでいるが、まだゲームの終わりは見えない。
 これからもアップデートされていくだろうから、きっと一生遊べるだろう。
 ステータス欄には、こう書いてある。

【ジョブ】 剣士
【LV】 132
【装備】 紅龍一式
【スキル】 火事場根性

「さてレベリングするか」

 機械的に雑魚モンスターを殺し素材をはぎ取りながら考える。
 今日も特に何もない一日だった。

「なんかだりぃ……」

 誰か別人に生まれ変われたら、中学高校時代からやり直すのに。

「おちる……」

 いつのまにか、まぶたが重い。頭がこっくりこっくり舟を漕ぐ。
 コントローラーが手から滑り落ちる。
 世界は闇に包まれて――
 刹那、男の声が聞こえた。

「あ……うまく繋がった。君が、「異世界の住人」なの?」

 涼しげなメゾソプラノの声だった。青年と言うより少年の声。

「は?」
「ごめん。君が知る由もなかったね。じゃあ、手早く手順を進めてしまおう」
「誰だお前」
「うーん……これから、君が代わりになる者、とでも言っておくよ。さて、質問1。君は、人生を後悔しているの?」
「いきなり質問てどういうつもりよ」
「頼むから答えてくれよ。手順が進まないだろ」
「わかったよ……そりゃもちろん、後悔してるさ」

 ずっと、やり直したかった。世の中の冷たさ、厳しさを何も知らなかった頃の自分から。

「肯定ってことでいいね。じゃあ質問2。今の生を捨てて新たな生を受ける覚悟って、あるかな」
「覚悟?」
「命って、重たいんだ。その肉体がこれまで生きてきた月日と、これから生きていく月日の可能性。その二つをともに剥奪して、僕は君の|霊《ゴースト》をこっちの世界へ「召喚」する」
「お前中二病なの?」
「ちゅうに……なんだいそれは? とにかく、肯定するかい?」
「するよ。今の生になんて、ひとかけらの価値もないからな」
「随分と、君は悟っているというか、冷めた人間だね。こっちに来たらびっくりするかもよ」

 声は仄めかすように言った。

「では、最後の質問いくよ。質問3。新たな人生を、全力で楽しめる?」
「たりめえよ」
 
 なんでそんな当然のことを聞くのか、わからん。

「よかったよ。では最後に、警告だ。君には、「運命《さだめ》」が待ち受ける」
「さだめ?」
「実は召喚先の身体……僕の体には、定められた行き先がある。君は……近いうちに、殺される」
「は? 転生する意味ねえじゃん」
「いいや、そんなことはない。霊|《ゴースト》は、この世界では輪廻転生するからね」

 ちょっと情報過多で頭がこんがらがってきたぞ。

「今はそれでいい。いずれ、この意味がわかるときが来るさ。「それまでは、探究せよ。冒険せよ。汝、我を代替し世界を味わい尽くせ」」
「あ?」
「契約終了っと。さあ、僕の世界へようこそ」
「ちょっと待て、もっと詳細に説明を――」
「大丈夫。僕がサポートするから」

 その言葉を最後に、俺は深海から引き上げられるように、目を覚ました。
 俺は布団の中にいた。
 床にはコントローラーが転がり、ゲーム画面はクエスト失敗状態。寝落ちしてる間にモンスターにぼこぼこにされたらしい。

「俺も幻覚が見えるレベルまで堕ち――うっ……!」

 やっと気づいた。
 胸の深い部分の痛み――心臓が、止まっていた。
(まじかよ……)
 苦しいけど、すでに身体から力は抜けていて。
 そのまま何もできないうちに、視界は揺らぎ、意識が消えた。
 俺はこの世界において、約二十年の実りのない生涯を終えた。
(つづく)







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