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<妹姫・三話>姫と姫騎士の学園




 前世の記憶が全て蘇り、はっと我に返る。

「ご主人様? いかがなさいました?」
「そうだ、思い出した! これまでのこと、全部思い出したよ、ウィルベル」

 体中、鳥肌が立っていた。現在は次期皇帝の俺はついさっきまで、何の変哲もない男として、平凡で退屈な人生を送っていたのだ。

「まるで人が変わってしまったようなお顔です……」
「ああ、その通りだよ。ウィルベル、君の本当のご主人様は、コイツなんだから」
「はい?」

 胸に抱えた子猫を、持ち上げてウィルベルに見せてやった。
 しかし、彼女は小さい手足をばたつかせる猫を目前に、きょとんとするのみ。
 口で説明してやろうとすると――

「にゃう」
「痛っ!」

 かぷりと指をかまれた。同時に、声が聞こえた。いや、むしろ聞こえるというより、頭の中に響くよう。

――バカ! 言うなよ!

 ようやくわかった。これは、レイジのテレパシー。
 俺も頭の中で返事してみる。

――なんでだよ。ウィルベルに嘘つく必要あんの?
――中身が入れ替わってることが知れたらまずいんだ! ウィルベルだって告げ口しないとも限らない!
――お前はそれでいいの?
――女の子に関わらないで済むならこっちの体のほうがマシだね。

 風変わりな皇子もいたもんだ。
 手元のその子猫がにゃうにゃう鳴くのを見て、ウィルベルはふにゃふにゃ頬を緩めている。

「かわいい……」
「ウィルベル?」
「……はっ! 失礼しました!」
「とけそうな顔してたけど大丈夫?」
「は、はしたないところをお見せしました」
「取り込み中すまんが――くしゅん、その、お願いだからその子をわたしから遠ざけ――くしゅ」

 困り顔で話しかけてきたのは、騎士のクリスティーユ。くしゃみが止まらないのに加え、目もかゆそうにしょぼしょぼ瞬いている。

「悪いけど、この子は置いてけない。俺の警護はもう大丈夫だ、クリスティーユ。また後で会おうぜ」
「か、閣下……?」

 俺は戸惑うウィルベルを連れ、呆然とするクリスティーユたち騎士団一行を置いて学園の校舎へと進んだ。

「こいつを飼うことにしたよ、ウィルベル」
「あの、騎士団の方々がお困りのようなのですが――」
「ほら、この猫、可愛がってやりな」
「え、あ……すごい、ふわふわですね!」

 ウィルベルに子猫を渡すと、ぱっと笑顔が広がる。騎士団のことなど忘れ、にゃんこに夢中になった模様。

「子猫をお世話するの、夢だったんです! あの、この子……お名前をつけてはどうでしょう?」
「へえ、どんな名前がいい? ウィルベルの好きなようにどうぞ」
「スミレなんてどうでしょう? ちょうどスミレの花畑から現れたので」
「じゃあそれでいいんじゃね」

 子猫を手渡すと、ウィルベルは普通の少女のように微笑んだ。

「わあ……こんなに、顔がちっちゃい」

 おそるおそるスミレの頭を撫でるウィルベル。
 しかしその時、頭上から腹に響くような低い音が響く。
 どうやら鐘の音のようだ。
 見上げると、遥か高く、城の頂上の鐘楼で、結婚式場にありそうな金色の鐘が揺れていた。

「あぁ、時間! 遅刻です、ご主人様!」
「え、そうなの」
「わたしが子猫なんかにかまっていたせいで……すみません。少し急ぎましょう!」
「まあ遅刻しても怒られないでしょ、俺の地位身分なら」
「確かにそうなんですが……他の生徒さんたちに迷惑がかかりますから」

 俺は少し歩くスピードを上げて、建物へと踏み込んだ。

***

 メイドと白人男の姿を、城の最上階、ある小部屋から見下ろしている少女がいた。年の程は、十七くらいに見える。
 口に手を当て、欠伸を押さえた。
 本来滑らかな黒髪に、今は寝ぐせがついていて、まだ寝間着を身に着けている。彼女は透き通った声で、そっと呟いた。

「あの男の人が、わたしの運命の人……なのでしょうか」
「そうだ。それが皇族のしきたりだし、占術師もそう予言している」
「わっヘーゼル先生! いたの? びっくりしました。いきなり部屋にはいってこないで」
「何を言っているの? ここはわたしの部屋でしょう。仕事の邪魔をしていることくらい、自覚してほしいわ」

 ヘーゼルと呼ばれた彼女は大人の女性だった。皺のないスーツのような衣服を着て、その上にマントを羽織っている。豊かな胸にかかる銀色に輝く長い髪は、天然のゆるいカールがかかっている。
 その声はどこかひんやりとした響きを持っているが、それは彼女のぶっきらぼうな性格を表したもので、心の根は温かい。

「ごめんなさい……いつも部屋を転々としているから、感覚が薄れていました。それより先生、疲れてる?」
「そうよ、昨日は夜遅くまで作業していたから。明日までに、この膨大な量の古代資料を読み解かなければならないの。マリ、よければ手伝ってくれる?」
「悪いのですが……わたし、今日は始業式で」
「そうだった? もうそんな時期!?」
「もう、先生は仕事にのめり込むと帰ってこれなくなるんだから」
「のめり込まないと処理しきれないの……回復薬浸けで、もう何日も一睡もしてないんだから」

 ヘーゼルは王族ではなかった。平民の地位ながら、古代文字を勉強し、学問の力でイディアル学園の教授へと上りつめた。
 机の上の未解読の古代書の山を片付けるべく、彼女は椅子に腰をおろす。
 眼鏡をかけて作業を始めるが、それでも目の前の黒髪の少女はぼんやりと空を見ているので、彼女は一応訊いておいた。

「マリ。始業式、行かなくていいの?」
「ふふ、わたしは遅れても怒られないんです」

 天真爛漫な笑みを浮かべて、姫は答えた。

「皇女たる者がこの有様か」
「だって……」

 そう言われても、皇女はつぶらな瞳を曇らせるのみで、ベッドから動こうとしない。

「帝国も先が思いやられるな」
「もう、ヘーゼル先生、そんなこと言わないで。この国が滅びるわけないでしょう? わたしはこのイディアル帝国が大好き。常春の気候、善良な民、そしてわたしたち王族の魔術の恩恵を受け、栄える街。滅びるなんて、そんな心にもないこと、言わないことです」
「全く、世間知らずの姫はこれだから困る……」
「どういうことですか? ヘーゼル先生」

 そう大真面目に訊いた途端、

「マリっ! いるっ? わたし、アリス! 迎えに来たよっ!」

 太陽のように元気で明るい声がドアの鈴が鳴る音と同時に聞こえた。声が耳に入るだけで、気分がよくなるみたい。そう、マリは思った。

「国はどうでもよくても、友達は大事だろう?」
「……もう、わかったよ。今行きます、アリスちゃん」

 二人に背中を押され、ようやくマリはうんと背伸びをして、着替えを始める。

***

 城に入った途端、花園とはまた違う、甘いような匂いが鼻孔をくすぐった。
 どこかで、こんな香りを嗅いだことがある。記憶をたどってみる。
 思い出した――そう、この香りは、例の幼馴染みの女の子の家に遊びに行った時、部屋に染み付いていた香り。

「女の子の匂い……やばい興奮してきた」
「昨日まで性欲ゼロだったご主人様がそんなことを言うなんて……ウィルベルは光栄です」

 城はびっくりするくらい広く、迷路のように廊下はいりくんでいた。
 螺旋階段をテンポよく上がり、荷物と猫を抱えたウィルベルについていく。
 廊下の突当りを曲がって、俺はそこにあるらしい教室へと向かったが――

「いたぁっ!」
「うおっ!」

 何かと正面衝突した。
 俺は踏みとどまったが、相手は勢い余って地面に尻もちをつく。
 倒れているのは、学校制服姿の女の子だった。いや、似ているけど学校制服ではない。
(軍服か……?)
 肩のところが金色の肩章で飾り付けられている。転生前の現実世界ではありえない、派手な制服。意外と、プリーツスカートと似合っている。
 その女の子は見たところ、高校二年の、十七歳くらいだろうか。

「びっくりしたぁ……ごめんね、ぶつかっちゃって」

 彼女はしかめた顔を俺に向け、紺碧色の瞳の焦点を俺に合わせた。
 白金色の髪はセミロングで、頭の横に一つ作った結びがぴょんとアクセントになっている。ワンサイドアップというやつ。
 どこか世間知らずな感じの、素直な声で彼女は言った。

「ねえそれより、マリを知らない? ええと、皇女様の。あの子、待っててあげたのに先に行っちゃって、わたしが遅刻する羽目に」
「は? マリって誰? 皇女って?」

 野太い声で言うと、彼女は一瞬息を詰まらせる。澄んだ瞳を見開いて、口をぱくぱく。

「ああっ……れ、れ、れ!」
「れ?」
「レイジ様だあっ!」

 驚いた表情に、少しずつ笑みが広がっていく。

***

「みんなーっ! レイジ様の到着だよっ!」

 アリスが広い講堂中に聞こえるよう叫ぶと、その場にいた人々が、全員俺たちに視線を集めた。
 一拍遅れて、きゃあっ、と黄色い嬉しそうな悲鳴があがった。
 どれもこれも、中学生か高校生の女の子の声だった。
 そう、この学園には、女の子しかいないのだ!

「本当にあの方が、レイジ様?」
「偽物じゃないよね?」
「わあ! 初めてこんなに間近で男の人に会っちゃった!」

 高い声で喋る女の子たちは、みな制服を着ていた。それぞれ軍服風デザインの制服だ。
(どうなってんだこりゃ)
 可愛い女の子しかいない空間は、なかなか感動的だった。

「ノエル、こっちおいでよ! レイジ様だよ、ほら!」
「アリス、その人は……ほんとうにレイジ様なのです?」
「そうだよ。本物!」
「凄いです! お目にかかれて光栄なのです、レイジ様」

 興奮した様子のアリスが呼んだノエルという子は、頭部以外に甲冑を身に着けていた。
 ポニーテールにした薄い桃色の髪が、プレートアーマーの上にこぼれている。
(この世界、ピンク髪とかいんのかよ)
 クリスティーユたちと同じく下はスカート。青い目はぱっちりキラキラしている。可愛いけど、アホの子っぽい雰囲気を醸しているのが何とも言えない。凛々しい騎士鎧が全然似合っていないのだ。
 アリスと同じ、十七くらいに見える。

「君、名前はノエルって言うの?」
「そうなのです!」
「じゃあ、ノエル。一つ聞くけどなんで騎士鎧着てんの?」
「それは、ノエルがわたしの姫騎士だからだよ、レイジ様?」

 答えたアリスに訊き返す。

「なんだ姫騎士って。姫なのか騎士なのかはっきりしろ」
「ノエルは王族の姫でありながら、わたしに仕える騎士でもあるんだよ。ね、ノエル?」
「そうなのです! わたしはアリスに忠誠を誓っているのです!」
「ほう……一応理屈があるのか」

 ここは、お姫様が騎士をやる世界らしい。危なくないか、と考えていると。

「知らなかったの? 姫騎士だって、この国にとって重要な戦力じゃない」

 背後からまた、新しく女の子の声がした。どこか自信に満ちた響きの声。

「リナ! 凄いのです! かの有名なレイジ様が、わたしたちの学園にお越しになったのです!」
「レイジ様はみんなの憧れだものね」

 余裕を持った微笑みながら現れたのは、アリスと同じ制服姿の女の子。
 ライトブラウンの髪を、ハーフアップにしていた。ハーフアップというのは、髪の上部分だけをうしろで結び、下の髪はそのまま下ろした髪型。お嬢様結びと言ったほうがわかりやすいかもしれない。
(この子、なんか甘やかされて育った雰囲気醸してるな。いかにも姫っぽい)
 彼女は髪を指先でいじりながら、彼女は栗色の瞳を俺に向ける。

「お初にお目にかかります、レイジ様。わたしは、セイラ国の姫、リナと言います。よろしくね」
「おお、よろしく。俺って女の子たちの憧れなのか。リナは俺のファンなのか?」
「へっ!? わ、わたしは……」

 リナは誤魔化すようにノエルへと話を振った。

「ノエルはファンだよね? 以前帝国で馬車の中からレイジ様を見たとき、一目惚れしちゃってなかった?」
「ふえっ? わ、わたしは……そうなのです。レイジ様のこと、憧れていたのです!」

 ノエルは、一気に言い切った。少し頬を染めてキラキラした瞳で見つめてくる。
(女の子にこんな目線向けられたの初めてだ……)

「アリスもファンじゃなかったかしら?」
「え!? わたしは、うん……えっと、かっこいいと思ってました」

 赤面しながら、ちょっと目を反らされた。
 この会話のやりとりを見ながら心の中で思った。
(俺、思った通りモテてるな)
 鏡を見たときからいけると思っていた。第二の人生は、女の子とイチャイチャしながら過ごせそう。内心でほくそ笑む。

「ありがとう二人とも。嬉しいよ」

 表面的ではイケメンスマイルを浮かべると、周囲からきゃあっと黄色い声が上がる。目にハートマークを浮かべたような女の子たちばかり。アリスとノエルもぽっと頬を染めている。
(お姫様たち、ちょろいなおい)
 だがプライドが高いのか余裕を持っている子達も少数だがいる。そのうちの一人であるリナは背後から一人の女の子を引っ張ってきた。

「そうだサーニャ。学園一の秀才ちゃんは、男になんか興味ないの?」
「まったく……リナはそういう話ばっかり」

 呆れた口調でそう言うのは、金髪ツインテールの背の小さな女の子だった。中学生くらいに見える。
 この子は制服を着ている。瞳は薄青い。
 ジト目で言った。

「まるで発情期みたい」
「は? はつじょう、って何よ? 聞いたこともない言葉だわ」

 サーニャはぽかんとするリナに構わず、じっと俺を見つめ始める。俺の表情を窺いながら、ちょっと緊張した感じで喋った。

「初めまして。サーニャと言います。わたしはみんなより二才年下なので、レイジ様にとって後輩になります。ええっと、よろしくお願いします」
「ああ、よろしく」
「その、いきなりすぎるかもしれないですけど、レイジ先輩って呼んでもいいですか?」
「いいよ、サーニャ」
「あ、ずるいのです! そうやってサーニャちゃんだけ仲良くなって!」
「ふふん、いいでしょ。それにしても」

 瞳の奥がキラリと光った。

「これが、男性……初めて近くで見た」

 興味津々と言った感じ。ノエルやアリスとは方向の違う関心がありそう。なんというか、俺を研究観察対象にでもしたそうだ。

「じー……」
「おい、サーニャ?」
「じー……」
「あの、すみません……お傍を離れてしまいました。メイド失格です」

 脇からそっと会話に入ってきたのは、メイドのウィルベル。

「おお、お前か。今までどこにいたんだよ」
「スミレが逃げてしまって……やっと捕まえたんです」
「わあっ! その猫可愛いっ!」
「……確かに、可愛い」

 アリスからサーニャまで、皆の注目が集まる。
 スミレはウィルベルの腕の中、ぶるぶる震え、毛を逆立てていた。

――うわあああああああ! 女だらけだああああ! やめてよおおおお!
――は? お前、女が嫌いなの?
――女なんて生き物、消えてなくなればいいのに!
――お前変わってんな……

 総勢100人くらいの女子生徒たちが、俺の周りに群れている。そういう性格なら、この状況は地獄だろう。
 その震える子猫を嬉しそうに抱きしめているウィルベルに、疑問を小声で訊いてみる。

「それよりさ、さっきから気になってたんだけど、王族って、女しかいないの?」

 男を初めて見た、という言葉が多く聞き取れた。

「大体そうですね。王族の血脈には、今現在、あなたとあなたのお父様、二人の男性しかいません。「王家の呪い」によるものです。加えて姫君たちは、子を産む相手である皇帝にまみえるまで、男との接触をしてはいけないことになっています」

 王家の呪い……? 今はいいや、また今度の機会に詳しく説明してもらおう。

「ふーん……俺のためにウブな女の子たちが用意されてるんだな」
「ご主人様の好きにしていいとのことです。全員、ご主人様のお父様である皇帝の娘ですから、彼女たちは、腹違いの妹ということになります」

 妹姫が、100人いる!
 みたいな感じなのだろうか。ラノベでそんなタイトルがあったような、なかったような。
(とにかくすげえ世界に迷い込んじまった)
 現実との違いがありすぎる。あとで落ち着いた時、もう一回まとめてウィルベルかスミレに説明してもらおう。

「ところでレイジ様。そのメイドさんは誰なのっ?」

 アリスがウィルベルを見て言う。

「ウィルベルって言うんだ。俺専属のメイドだよ」
「へえ……よろしくね、ウィルベルさん!」
「いえ……わたしこそ」

 ノエル、リナ、サーニャもそれぞれ笑顔で挨拶した。

「ノエル様、訊きたいことがあるのですが」
「どうしたのです? ウィルベルさん」
「どうして、今騎士鎧を装備しているのですか? これから、霊魔法の講義ではないのでしょうか」
「違うのです。今日は始業式早々、一時限目から実習があるのです。グループを作って、すぐ近くのダンジョンで、軽めのクエストをこなすのです。絆を深め直すのが目的なのです」
「ああ、そういうことですか。失礼しました」

 ウィルベルは納得できても、俺はできない。知らないことが多すぎて困る。

「なんだ、クエストって」
「魔法や武器を使って、魔物たちを倒しにいくの。回数をこなすうちに腕があがるし、同行者との絆も深まる。学園の教授がクエスト内容を決めるんだけど、難しいクエストをクリアすれば、報酬もたんまり出るわ」

 リナの言葉に、ふーんと頷く。
 現世における「ハンマー&ソード」を思い出した。たぶん、あのゲームと同じように、リアルにモンスターでも狩るつもりでいれば問題ないかな。
 いっそ全部、「ハンマー&ソード」にあてはめてみよう。
 この城は狩人の出撃拠点で、姫たちは同行者。仕える武器はハンマーと剣だけではなく、魔法も加わる。
 うん、こう考えると、わかりやすいな。

「はーい、みんな、それくらいにしときなさい。レイジ様に失礼でしょう」

 そこに、大人の女性の声がかかる。
 見ると、教壇に教授とおぼしき人物が立っていた。銀色の髪を持ち、少し疲れて眠たそうな顔をしている。美人なおかげで、その半開きな瞳がどこか色っぽい。
 アリスが彼女を見てヤジを飛ばす。

「あ、ヘーゼル先生また遅刻っ!」

 そういう名前らしい。ヘーゼルはアリスをちらりと見て、謝った。

「教師のくせに、遅れてごめんなさい。仕事を一区切りつけたくて。
 これから早速、実習を始めるわ。クエストのやり方わかんない人は、上級生に聞いて。四人一組のグループ全員揃って、定刻までには城に戻ってくるように。さあ、それぞれのダンジョンに行きなさい」
「ヘーゼル教授、相変わらず眠たそう」
 
 欠伸をしてすでに講堂から出ていこうとしているヘーゼルの後ろ姿を見て、リナも心配そうにそんなことを言った。そこに一転、アリスの元気な声。

「じゃあわたし、自室で着替えてくるよ。一緒のグループになろうね、レイジ様?」
「ああ、いいよ」

 アリスは元気一杯で可愛いし、何も問題ない。

「あ、わたしも姫騎士としてアリスに付き添うので、同じグループなのです。よろしくお願いします、レイジ様」
「わたしもレイジ様と一緒がいいわ! ね、わたしもついていっていいよね? ノエル?」
「もちろんなのです。レイジ様、いいのです?」
「そうしよう」

 俺はアリスとノエルとリナと同じグループになった模様。他の女子たちはため息をついている。サーニャは他の女の子たちと約束があるのか、既にグループになって会話を始めている。
 期を一にして、ぞろぞろと、皆が着替えるため講堂から自室へと帰り始めた。
(つうかみんな何に着替えんの?)
 ま、よくわからんが、さっそくクエスト行ってみよう。いきなり女の子たちをレイプしなくても、いつでもチャンスはありそうだし、様子を見たほうがいいだろう。
 とか考えながらぼおっとしていると、ウィルベルに言われた。

「ご主人様も着替えるんです」
「そうなの?」

***

 俺は、軍服っぽい男性用制服に腕を通した。腰に装備した剣を触りながら、ゲームにあてはめて自分のステータスを考えてみた。

【ジョブ】 剣士?
【LV】 ?
【装備1】 そこそこ上質な剣
【装備2】 配給軍服
【スキル】 ?

 まだ全然、自分の能力がわかんないな。
(つづく)







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