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アンステイブルラブガーデン(1)

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戦乱プリンセスG
<あらすじ>
桜舞い散るあの日、大学生の祐は故郷の巡島を出て、憧れの大都会、春木市にやってきた。金色に輝く髪、青い瞳の容姿を持つ13歳の妹、彩を連れて。
新たな街では、新たな出会いが彼を待っていた。
島からついてきた幼馴染みや、大学で出会った不思議な女性、はたまた社会人のお姉さんにも目をつけられて……。取り巻く女性たちとの関係は少しずつ深まっていく……。
――だがあの晩、祐の日常は思わぬ方向へ進み始めた。
「祐……わたしだって……」

 新たな地に発つこの時を、ずっと待ち望んでいた。心を急かしながら。それでもどうしようもなくゆっくりと。
 その時がやっと訪れたというのに、実感は湧かなかった。それも仕方ない。この島に十八年間縛られてきたのだから。
「うううう」
 伸びをして、体を目覚めさせる。今は八時、爽やかな朝。春の風が体に心地いい。
 ふと思い付いて、空いている窓から乗り出す。この島の風景を見るのも最後だと思うと、取り敢えず目に焼き付けておくのも悪くない。
 眼前の風景――。
 辺り一体、鮮やかな緑の森林が広がっている。所々ピンク色なのは桜が花開いたからだ。
 そして遠くには海が横たわっている。あまりにも大きく青い海。今日俺はあれを越えて、春木市に旅立つ。
 島を出るのは、俺を含めて三人。他のみんなはここ|巡島《めぐるじま》に留まる。皆既に島の中で働き口を見つけていて、何も不自由はない。それでも俺はここから飛び出したかった。
「祐、ごはんよ」
「うーい」
 部屋を出て、階下の居間へ。トーストの焼けたいい匂いが漂う。この生活が染み込んだ家もしばらくお別れだが、未練はない。
「おはよう母さん」
「あらおはよう。そんなに元気な挨拶、毎日できたらいいのにね」
 皿を持った母さんは、そう言ってにっこり笑った。
 母さんは綺麗な人だ。|黄金色《、、、》に輝く髪を後ろで束ねていて、青い瞳――あの海のような色の瞳を持っている。
 俺は洗面所で顔や手を洗った。寝癖のついた|黒髪《、、》が鏡に映った。手櫛でとかしながら椅子に座って朝ご飯を待った。うっとりとこれからのことを考えながら。
 母さんはこんがり焼けたトーストを三つ皿に載せ、父さんを呼んだ後、俺の向かいに座った。
「祐とはしばらく一緒にご飯を食べれないのね」
「作るご飯が省けて楽じゃんか」
「そのくらいの苦労、どうってことないのよ」
 母さんはため息をついた。
「それよりも、これからはお父さんと二人っきり」
「こないだそこのソファでくっついてたじゃないか」
「いやだ、見てたの? そりゃ、夫婦だからときどきそういうこともあるけど」
 十分仲がいいじゃんか、と言おうとすると、父さんがのっそりやってきた。
「おはよう」
「おう、祐」
 父さんはだんだん髪は白くなって、顔にも皺が出来ている。若者の手が欲しいだろうに、送り出してくれるのはひとえに俺の気持ちを尊重してくれたのだろう。
 父さんは洗面所から出てきた後、きょろきょろした。
「彩《あや》はどこに行った」
「あ、俺も気になってたんだけど」
「おめかししてるのよ。そのために早起きしたんだから」
「じゃあご飯はもう食べたんだ」
「二人で食べちゃった。わたしもみんなで食べようって言ったんだけど……あれだけはりきってたから」
「楽しみにしとくよ」
 すると父さんがじょりじょりとひげをさわりながら言った。
「早く食わないと冷めるぞ」
「そうね、二人とも召し上がれ」
 いただきますを言おうとした時、廊下からたったっと音がした。彩の足音――小走りのリズム。
「もう済んだらしいわね」
 母さんが目元をゆるめると同時に、がらっとドアが開いた。
「ママ、どう?」
 一気に空気が華やかになった気がした。それほど綺麗で、元気溢れる少女だった。
 母さんより白っぽい|金髪《ブロンド》。腰まで届くくらい長く伸ばしたそれは、光の当たり具合でチラチラ光っている。今日は頭の上のほうに、小さな深紅のリボンを左右で二つ結んで、ツインテールを作っている。
「結局その髪型で落ち着いたのね。彩は本当に綺麗な子になったわ」
「えへへ」
 彩は幼さが抜けきっていない顔つきで、にこっと笑った。そのままサファイアみたいに青くて済んだ瞳を俺に向ける。
「祐、可愛い?」
「とっても」
 そう言うと、彩はまた嬉しそうににこりとする。
「昔、その髪型してたことあったよな」
「うん。三年生のとき」
「じゃあ四年ぶりか」
「あのときまではリボンママにつけてもらってたから。でも一人でつけるの大変だからやめちゃってたの」
 そう言って俺の隣にすとんと座った。
 彩は服もお出かけようのものを着ていた。今日は赤が基調のようだ。刺繍のある白い長袖の上に赤いベスト、スカートも赤のチェック、提げたポーチもピンクだ。母さん譲りの真っ白な肌に映えている。
 いつからこんなに女の子らしくなったんだろう。
 俺はずっと、彩の成長を見てきた。ついこの間まで「子ども」だったのに、今ではしっかり「少女」になっていた。
 そんな妹も、俺と一緒に春木市に行くことになっている。

》》》

 わたしは祐の隣に座った。
 祐がわたしの顔をぼんやり見ている。
「ご飯食べないの」
「ああ、そうだった。いただきます」
 もしかして、わたしにみとれてたのかな? そうなら、今日はおしゃれしたんだから、もっと見て欲しい。
「ねぇ、祐。向こうついたら、祐が髪型セットしてよ」
「自分でやったほうがうまくいくんじゃないの」
「鏡見ながらリボン留めるのめんどくさいんだもん」
「俺女の子の髪とかいじったことないんだけどなぁ」
 祐は困った顔をしてる。ママが笑った。
「珍しいわね、彩が他人に髪をさわらせようだなんて」
「祐ならいいよ。家族だし」
 この綺麗な髪は、わたしの自慢。ママからもらった宝物。だからできるだけ長く伸ばしてるし、親しくない人にはさわらせない。
「俺じゃなくて萌恵《もえ》にやってもらえば?」
「それでもいいけど……」
「そうね、女の子同士のことは南條さんにお世話になればいいんじゃない」
「……うん」
 まあいっか、それでも。萌恵ちゃん優しいし。
 話してるうちにみんな朝ご飯を食べ終わって、祐は出発の準備、パパはひげそりに行った。
「彩、こっちに来なさい」
 椅子で足をぶらぶらさせてたら、ママに呼ばれた。ソファにいるママの隣に座った。
「なに」
「今から大事な話をするから、ちゃんと聞くのよ」
「なにそれ。はなしくらい聞けるよ」
「それなら安心」
 ママはわたしの手を握った。ひんやりした手。
「彩は今日から、祐と南條さんと、三人で生活するんだよ。ママもパパもいない」
「うん」
「寂しくなったり、いつもと違う環境に困ったりするかもしれないし」
 ママは真面目な顔でわたしを見ている。こどもをあつかうときみたいな話し方だけど、文句はいえない感じだった。
「おまけに、彩の体はだんだん大人になってきてる。大変なときなのよ」
 確かに、わたしは六年生くらいのときから、乳首がとがってきて、こすれて痛いときがある――今はちっちゃいブラジャーをつけてるから大丈夫だけど。おまけに胸がちょっと膨らんできて、いつか赤ちゃんにおっぱいあげられるようになるのかな、なんて思ったりする。
「そういうことのせいで、もしかしたらイヤなこととか、戸惑ったりすることがあるかもしれない。そしたら、南條さんに――祐にでもいいわよ――相談していいのよ」
 ママが言うように大変なのかもしれないけど、わたしは大人になってくのも、都会で生活するのも楽しみ。色んなことが出来るようになりそうで、ワクワクする。
「それもイヤなら、ママに電話してくれてもいい。迷惑なんかじゃないよ。彩が元気でいてくれれば、ママは嬉しいから」
「ママ……」
 ママの手をきゅっと握った。
「まあ、そんなに心配はしてないよ。彩は芯の強い子だからね。春木の学校に行くなんて聞いた時はおどろいたのよ」
「だって祐だけ行くなんてズルいんだもん」
 本当は祐がそのままどこかへ――わたしをおいてどこかへ行ってしまいそうっていうのが理由だけど。
「そう、その意気で行くの。向こうで精一杯楽しくやりなさい」
「うん」
 ママがにっこり笑うと、胸がぽかぽかして、嬉しくなった。
 だけど、そんなママの顔を見てるうちに、急にママと離れたくなくなってきて……胸がきゅうっと締め付けられる感じがした。だけど、もう決まったことだから……。
「準備、終わったよ」
 祐がトランクを引きずってきた。
 なんだか目が熱くなってきたけど、泣くのはこどもみたいで恥ずかしいから。ママの手を離して立ち上がった。
「彩は準備終わったの?」
「大きい荷物全部玄関に置いた」
「じゃあ、まだ早いけど行こうか。父さんまだ?」
「おう、もう少しだ」
 じょりじょりがサッパリしたパパが洗面所から出てきて、自分の部屋に寝巻きを着替えに行った。ママは食器を片づけたらもう行けるみたい。
 祐は隣でウロウロしてる。早く外に出たいのかな。
「この家ともしばらくお別れだよね」
「そうだね……彩は忘れ物ない? やっぱり持っていきたいものとか。昔のくまのぬいぐるみは置きっぱなしだったけど、いいの?」
「いいよ。もう13歳なんだよ」
「あんなに大切にしてたのになぁ」
 祐がいじわるな顔をした。
 恥ずかしいのと怒ったのとで顔がかあっと熱くなった。もうこどもじゃないのに、バカにして……祐じゃなかったらけっとばしてたのに。
 そのうちママもパパもやって来た。
 祐が玄関の扉をきぃっと開けた。薄暗かったところに光が差し込んできた。暖かい光だった。
 わたしは誰にも聞こえないようにつぶやいた。十二年過ごした我が家に向かって。
「ばいばい……行ってくるね」
(つづく)
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