たっぷりふたなりの魅力をお楽しみください!
「お姉ちゃん、おーきーて」
ユリカの朝は、いつもその一声から始まる。
妹のカナが、起こしに来たのだ。
「おーきーて、ってばっ」
「うるっさいなー、カナはー」
ユリカは眠気に勝てず、布団をかき寄せる。
カナの声は、鈴が凛と鳴るような、澄んだ響きを持っていた。かなり贅沢な寝覚ましだが、ユリカ本人は別にそうとは思っていない。
カナに布団の上から馬乗りされ、ぱし、ぱしと布団ごとはたかれて、やっと音をあげた。
「何よ~もう少し寝かしてくれてもいいじゃんっ」
うんざり顔で、ユリカはむっくりと身体を起こす。自然と、近距離で対面することになった。
ユリカとカナ、姉妹二人揃って、いわゆる美少女だ。
ただ、ユリカはだらしなく寝坊しているのに比べて、カナは家を出る準備が整っている。
(相変わらず、模範的で可愛げがないんだからっ)
ツインテールの髪型が、ばっちり決まっている。
中学校の制服を着こなしていた。女子たちの間ではデザインが大人っぽく、可愛いことで有名な、清楚なセーラー服だ。
そんな制服に不釣り合いなのが、その胸だった。女子高生でもほとんどいないくらいのサイズで、色気を漂わせている。これまで男子生徒たちの視線を集め続け、これからもそうなることが確かだった。
だが、姉のユリカはほとんど気にしていなかった。せいぜい、姉である自分より大きいサイズにむかついて、時々ちょっかいをだすくらいだ。
「おはよ、おねーちゃん。髪ぼさぼさだよー。ちゃんと髪結んで寝ないからー」
ユリカは、妹に比べてだらしない性格をしていた。
胸のあたりまで、ストレートの髪を伸ばしている。長いと面倒なので、切ってしまってもいいと思っていた。
まるで子供の世話をする母親のように、カナはその髪を整える。カナは中学二年生、ユリカは高校一年生だというのに、傍から見たら誰もそうは思わないだろう。
ユリカはまだ寝ぼけ眼で、妹の優しさに全くありがたみを感じていない。
「後で自分でやるってば……カナは」
「日曜日じゃないんだよー?」
「春休みでしょ? もーすこし寝かせて」
「何言ってるの、おねーちゃん。今日は始業式、おねーちゃんの記念すべき、紫蘭学園初登校日じゃんっ」
「え……うそっ? 今日って、えぇっ?」
ユリカはカレンダーを二度見する。電波時計の日付と見比べたら、妹が正しいことが明らかだった。
額に手を当てて、ため息をつく。
(わたしったら……ほんとにずぼら)
「カナは先に学校行ってていいよ。もう始業式は済んで、とっくに授業始まってるんでしょ?」
「おねーちゃん、わかってないなー。わたし、おねーちゃんの新しい制服姿がみたいの。紫蘭学園の制服が」
「そんなの、制服が届いた日に見せたじゃん」
「だって凄く似合って、モデルさんみたいなんだもん、おねーちゃんっ」
カナはユリカに抱き着いて、甘えた。ユリカも姉らしく、ふふっと笑って抱き返している。
(こーゆうところはやっぱり、可愛いんだから)
姉妹でじゃれあっていると、突然インターホンが鳴った。
「ユリカさん、いますかー」
「友達のキョーコとシオリです」
「あっ、迎えに来ちゃった。急がないとっ」
ユリカは、パジャマを脱ぎ散らかして、新しい制服に身体を通す。
本当に、何気のない日常だった。それが思いもよらぬ形で崩れだすとは、ユリカは全く知る由もなかった。
◇◆◇◆◇
「わー、ユリカ、美少女だー」
「素材がいい上に、可愛い服着たら、最強」
先程まで乱れっぱなしの服装だったユリカは、髪を整え、紫蘭高校の制服を身に着け見違えていた。
化粧などしなくても、若々しい少女の肉体は、すべすべと滑らかだ。短めのチェックのスカートから覗く太ももも、傷一つなく、適度に肉がついている。
全体の印象として、道行く男どもが、ちらちらと目をやるほどの美少女だった。
「そんなー、褒めても何も出ないってばー。キョーコもシオリも、可愛いって」
キョーコはとシオリは、ユリカの親友だった。中学生のときからずっと同じクラスで、ずっと一緒にお喋りして、遊んできた。そして同じ部屋で勉強して、同じ高校、紫蘭学園に入学することになった。
キョーコは、流行のファッションやアイテムが好きな、ごく普通な女子高生だ。胸の大きさもそこそこで、髪も肩にかかるくらい。ユリカに負けず劣らず美少女で、当たり前のように彼氏がいた。
ユリカはよくその彼氏の話を聞かされている。ユリカは一度も男と付き合ったことが無い乙女なので、興味津々で耳を傾けていた。
一方シオリは、見た目からなんとなくおとなしそうな雰囲気が出ている女の子だ。髪はショートで、胸はカナと同じくらい大きい。こっちも美少女で、小動物的な可愛さが、中学クラスで、男子生徒たちの人気を買っていた。
小説・漫画に限らず、よく本を読んでいて、家の本棚はいっぱいになっている。インドア・内向的な女の子だ。ぼそっと、呟くように話すのがそれを端的に表している。
勉強面で、キョーコとユリカはシオリに助けてもらっている面が多い。人気女子校である、紫蘭学園に合格できたのも、ほとんどそのおかげだった。
三人とも雰囲気が違うが、全員人目を惹くくらい美少女だ。
「おねーちゃん、モデルみたいだよー。ばいばーい」
三人が並んで歩き出すと、カナは、最後まで満面の笑顔で送り出してくれていた。
「いい妹ちゃんだねー」
「羨ましい」
「でしょー? わたしも妹がまじめすぎて、困っちゃってさー」
ユリカは内心で幸せな気分になりながら、手をひらひら振って、得意な気分になっている。それが彼女のいつもの行動だった。すぐに調子に乗ってしまうのだ。子供のころから可愛い、可愛いと言われ、育てられた結果だった。
数時間後には、調子に乗っていられる状況ではなくなることなど、知らなかった。
◇◆◇◆◇
(どんな女の子たちと友達になれるかな……きっとみんな品が良くてまじめなんだろうなー)
ユリカは紫蘭学園での新しい女子校ライフを楽しみにしていた。
なぜなら、ユリカは男子があまり好きではなかった。根本的に、綺麗で、可愛いものが大好きなのだ。カッコいいものとか、激しいものは嫌いだった。
周りに物腰が柔らかくて、見た目が華やかな女子しかいない環境は、望むところだったのだ。
もちろん、色恋沙汰に興味がないわけでない。しかしユリカにはキョーコとシオリという姉妹同然の親友がいて、その友達付き合いが十分楽しかったから、十分だった。
そんな思いで紫蘭学園の校門をくぐったユリカは、気分が高揚するのを感じていた。
「わー、なんか可愛い子、多くない? すっごい雰囲気いい!」
試験会場として訪れてはいたが、在校生たちが生活しているのを見ると、やはり印象が違った。
校舎は新築されたばかりで、すっきりと綺麗で、現代的で、お洒落だ。
そして大事なのが、女の子たちがクスクス笑いながら、楽しそうにお喋りしている姿だった。なんとなく女の子らしくしおらしく、それでいて活気があった。
「うん。わたしが勧めただけのことはある」
「そりゃー、みんなちゃんと勉強してきた、ちゃんとした娘《こ》たちなんだから、身だしなみだってちゃんとしてるからねー」
キョーコもシオリも自分と同じく、これから過ごすことになる日々を想像して、胸を膨らませているように、ユリカには見えた。
人だかりを掻き分けて、クラス分けの掲示を見に行って、三人は抱き合った。
「みんな同じクラスだー! やったねっ!」
そういうことで、三人一緒に、案内に従ってクラスに向かう。
「わたしたち、やっぱり縁があるね!」
「ま、別のクラスでも休み時間になったら会いに行くし、変わらないけどねー」
「わたしもそうするつもりだった」
そのまま、三人は寄り添いながら教室の前までたどり着く。三人とも、興奮が冷めないままでいる。ユリカは貼りだされた座席表を見て言った。
「さすがに席はちょっと離れてるか……クラスで新しい友達も作らないとねー」
「ううん。三人だけでやってくのもいい」
「シオリの言う通りだって! むしろそうしたいしっ」
(こんなに仲のいい親友がいて幸せっ!)
気分よくユリカはドアを開けて、教室に入ろうとした。と、ドアの向こう側にも教室から出ようとしていた人がいて、ぶつかりそうになってしまう。
ユリカはバランスを崩して、その場で尻もちをついてしまった。
(つづく)
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