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<ふたなり寮>ACT2




「いたた……」

 相手を見上げて、ユリカはふっと浮き上がるような感覚があった。
 お人形のように、綺麗な女の子だった。自分でもよくわからないまま、見惚れてしまう。
(綺麗な人……)
 その女子高生の髪は金色に輝いていた。瞳は澄んだ水色で、きらきら輝く水晶玉のようだ。
 ユリカは手を差し伸べられて、ちょっと頬が熱くなった。手をつないで、起きるのを手伝ってもらう。

「大丈夫? いきなり出てきてごめんなさい。あなた、クラスメート?」

 これまで見たことのないくらいの美少女が、自分を見つめている。ユリカはその事実に心臓の鼓動が早くなる。
 ユリカは自分に話しかけられていることが一瞬わからず、返答が少し遅れた。

「はいっ。ユリカ……と言います!」

 うふふ、とユリカは上品に笑う。どこかいい家のお嬢様なのかな、とユリカは思った。

「敬語なんて使わなくていいのに。おかしな人ね。お隣の二人は、お友達なの?」
「はいっ! こっちがキョーコで、こっちがシオリです」

 ユリカと違って、キョーコもシオリも何も感じず、よろしくね、と普通に返している。

「わたしはサヤカ。ユリカさん、これからよろしくお願いね」

 サヤカは軽く優雅に手を振って、どこかへ歩いて行ってしまった。キョーコが、未だ尻もちをついたままのユリカをからかう。

「ユリカー、何キョドッてんの? ほんと人見知りだよね。わたしたちがいなかったら、クラスでぼっちだったんじゃなーい?」
「ち、ちがうってば。そういうんじゃなくてさ……」

 お尻を払いながらユリカが口ごもっていると、シオリがマイペースに言う。

「あの人、ハーフなのかな?」
「そうじゃないの? だって髪染めるのは校則で禁止されてるって、わたし生徒手帳読んだし」
「キョーコ、染めるつもりだったの?」
「まあねー。折角高校デビューだし、そういうのもありかなって」

(キョーコが髪染めたら、ギャルになっちゃいそう)
 ユリカはそう思って、ひとりクスクス笑う。キョーコはそんな一面を持っていた。

「ユリカ、何笑ってんのー」
「ごめんごめん、なんでもないって」

 その時、がらがら、と教室のドアが開いた。ユリカより長い髪をなびかせて、人影が現れる。

「こんにちはー! 席についてねー」

 三人は、散り散りになって自分の席に戻る。ユリカは座席表通り自分の席に向かって、驚いた。

「あら、お隣だったなんて。よろしく」

 ユリカの隣の席はサヤカだった。またもや緊張しながら、ユリカは答えた。

「よ、よろしくお願いしますっ」

 ユリカは緊張を紛らわせようと、教壇に立つ人を見る。
(あの人が、一年間一緒に過ごす先生ね)
 教職に就いてからあまり経っていないのか、ユリカたちとあまり歳の違いはないようだった。スーツを着た体は出るとこは出ている、つまりグラマーで、大人のお姉さん的な雰囲気を纏っている。
 スカートの下のふとももは、真っ黒なストッキングに包まれてむっちりしている。

「はーい、わたしは、これから一年間このクラスを担当する、ツバキと言いまーす。よろしくね」

 生徒たちと友好的でありたいようで、何気ない雑談の話し相手になれそうな、口調だった。生徒たちの初対面の第一印象は良いようで、緊張はほどけ、打ち解けた感じになっている。

「家がちょっと遠い人たちはそこに泊まることになってると思うけど、白百合寮の監督もしているから、そこに住む人たちは覚悟しなさい? 生徒だけで何でも好き勝手できると思ったら、大間違い。わたしがビシバシ取り締まっちゃうからね!」

 ファイティングポーズを取ると、少し笑いが起きる。

「みなさんは、これから有名高校紫蘭学園の生徒です。別に脅すわけじゃないけど、その名に負けぬよう、品位と誇りを持って、毎日を送ってくださいね! それがきっと貴女たちのためになるから。さて、出欠をとりまーす」

(あー、このいい感じの先生がわたしたちとこれから生活するんだ。ラッキーっ!)

 結局、ユリカはその後サヤカとまともに会話できず、その日は解散になった。
 キョーコとシオリがやってきて、ツバキについて感想を言う。

「あの先生、いい感じじゃん。わたし気に入ったー」
「わたしもそう思う。優しそうな先生」

 三人とも同じ意見で、ユリカは安心した。こうして、休み時間には三人で共感しあえる。これからずっとサヤカと隣だとしても、なんとかやっていけそうだ。
 少し元気が出て、言った。

「さ、早速寮に行ってみよっか! これから三年間、過ごすわけだから早く見に行きたいじゃん?」
「さんせー」

 シオリは先生に当てられた小学生のように、はい、と元気に手を挙げている。
 
「わたしもユリカに賛成かな。もう荷物届いてるだろうしさ、荷解き終わらせちゃおー」

 いえーい、と三人で仲良く手をつないで、少し遠くに見える白百合寮に向かう。
(どんなところなんだろう、白百合寮は)
 ユリカは、わくわくと心が躍るのをずっと止められないでいる。

 その姿を、奇妙な姿をした動物が見ていた。耳と尻尾が生え、一見猫のようだが、決定的に猫ではない。白く丸い球体に、顔と四本の足と、尻尾が全部くっついた姿をしている。

「きゅー」

 その生き物は、三人のうちのユリカを見つめて、そう鳴き声を上げた。

◇◆◇◆◇

「じゃんけんぽいっ……やったー!」

 三人は白百合寮の玄関前で、「荷物取り」を決めていた。ジャンケンに買った二人が既に郵送済みの荷物を取りに行き、一人は楽が出来る。そういうルールだった。
 ユリカはそのジャンケンに勝利して、無事二人より一足先に寮の自室に向かったのだった。

(楽しみ……これからわたしたちが、過ごしていく部屋!)

 ユリカとキョーコとシオリの部屋は、同じ階にあるらしかった。ユリカの部屋は、その階の一番奥、階段やエレベーターから一番離れた位置にあった。

(移動するの大変だなー)
 これから三人分の荷物を運んでくる二人に少し申しわけなくなりつつ、ドアの前に立つ。

「失礼しまーす!」 

 誰もいないことはユリカもわかっていた。なんとなく、新しく出会った部屋に対してそう言って、扉を開いたのだ。

 高揚感を覚えながら、新たな住居を期待したユリカだった。これからの楽しい生活を疑ったことなど一度もなかった。
 ユリカは、その時既に、自分の運命が決まっていたことなど知る由もなかった。

「えっ……」

 ユリカの目には、驚くべき光景が映っていた。あまりの驚きに声も出ず、ひゅっと喉がなるのみだった。
 その部屋は、明らかに普通の部屋ではなかった。とにかく部屋中が気色の悪いピンク色に染め上げられていた。
(なによ……これ)
 ピンク色の部屋は、生きているかのように蠢いていた。
 ユリカは目の前の部屋を表す言葉が頭にふっと浮かぶのを感じた。肉壁だった。どくどくと波打ち、バケモノの液体が分泌される肉壁。
 まるで、巨大なバケモノの内臓にもぐりこんだようだった。
 しかし、その光景に悲鳴を上げる間もなく、突然ユリカは頭がぐらりとするような感覚を覚える。
 次の瞬間、霞が晴れるようにして、目の前の光景が一変していた。

「……あれ」

 そこは、全く普通の部屋だった。勉強机、箪笥、ベッド……どこにでもある、ありふれた部屋の佇まいに、ユリカはまたもや声も出ない。
(今の……何だったの?)

 狐につままれたような気持ちで部屋の中に入り、歩き回る。どこをとっても普通の部屋に戻っていた。

「意味……わかんない。幻覚?」
「きゅー」

 ユリカは唐突に聞こえた鳴き声にはっと振り向く。
 足元に、小動物がちょこんと座っていた。ユリカは呑気なことに、それを見て瞬時に気分が変わってしまう。

「あ、可愛いっ!」

 しゃがみこんで、頭を撫でる。しかしユリカはそこで、この生き物のどこかがおかしいことに気付いた。
 胴体がない。ふかふかと柔らかいクッションみたいな丸い球体に、猫みたいな顔と、足と、しっぽがくっついている。

「この子、なんて品種だろう……始めて見たー」
「きゅー」
「どうしてこんなところにペットが……白百合寮はペット禁止だよ?」
「きゅー」
「鳴き声、可愛いね。そうだ……君の名前はキューにしよっか。ほら、見た目もアルファベットのキューに似てるし―」

 キューはおとなしいことに、ユリカにわしゃわしゃと身体を撫でられていたが、そのうち手を離れて、しゃばみこんだユリカのスカートの中に入っていこうとする。
 ユリカは、内股を柔らかい毛にくすぐられ、くすくす笑った。思わず尻もちをついてしまう。

「こら、キューったら……」
「キュー……キュキュキュッ」
「え、いやぁっ、何よキュー……きゃっ!」

 ユリカは痺れるような快感を覚えて、頭が真っ白になっていた。キューが下着の中にするすると尻尾を忍び込ませてきていた。それがやたらに、気持ちいいのだ。
(や、やだ……いやっ)
 ユリカは柔らかい毛に擦られる快感で、身体の力がふっと抜けるのを感じた。ふとももの間に侵入してくる小動物をなんとか遠ざけようとするが、ますます柔らかい尻尾から得る快感は増していく。
 ユリカは床に寝ころんだまま、悶えることしかできなかった。

「んっ……いやぁ、キュー、やめてよぉっ」
「キュキュッ……キュー」
「あ、だめ……そこはっ! あぁんっ!」

 ユリカの表情が、強烈な快楽でとろけていく。太ももはぎゅっとキューを挟み、上半身は仰け反って、ひくひくと震える。
 キューの尻尾はユリカのクリトリスをさわさわと撫でていた。
 もはやはばかることなくユリカは甘く喘いで、キューの愛撫に身を任せていた。

「なんで……んんっ! わたし、こんなの……あっ、もうダメっ!」
「きゅ~」
「イクぅっ! あっ……あぁっ」

 絶頂した瞬間、ユリカはあまりの気持ちよさに、気を失っていた。キューは尻尾をユリカから離し、可愛らしい顔でその桃色に発情した女子高生の肉体を見下ろしている。

◇◆◇◆◇

「おーい、ユリカ! 大丈夫?」
「寝てるの?」

 ユリカが目を開けると、たくさんの荷物を抱えたキョーコとシオリが、心配そうに見下ろしていた。
(……あれ、わたし、どうしちゃったんだろう)

「な、なんでもないって。ちょっと瞑想してただけっ」
「はー? なにそれ、ユリカってそんな趣味あるの?」
「意外」

 ユリカは上半身を起こした。キョーコとシオリの声も、耳に入っていない。
 まださっきの体の火照りが冷め切っていない。自分の乱れようを恥ずかしく思いながら、スカートの裾を直しているときに、気付いた。

(……ん)

 自分の股間に、何か知らない感触があった。まだキューが隠れているのかと思ったが、そうではない。触ると、自分の身体を触っている感触があった。
 それは突起だった。一本、ふにゃふにゃしたものが股間から生えている。
 そして、その一本の下に、二つの玉が薄い皮にくるまれて、存在していた。

(なに……これ)
 棒は根元から先端まで、ふにふにとした感触だ。
 ユリカは、頭の芯から、冷えていくのがわかった。この感触は、明らかにこれまでの自分の体にはなかったのに、なんど触っても自分の体だった。
 視線の先に、まだ部屋に残っていたキューが映る。
 
(もしかして……キューの仕業なの?)
 ユリカは見つめるが、キューは表情を変えない。

「ユリカ、ぼーっとしてるけど大丈夫?」
「え、……う、うん」
「あの猫、ユリカ知ってる? なぜか部屋から離れてくれないんだけど」
「わ、わたしが連れてきたの! 後でわたしが出しておくね」
「そう? つうかさー、わたしたち荷物運びで汗かいちゃったよ。早速だけどさ、この寮って、共同浴場があるらしいじゃん。どんな感じか、見に行かない?」
「ご、ごめん! 今無理! 後で行くから、二人で先いってて!」

 ユリカは逃げ出すように、キューを胸に抱えて部屋のトイレに駆けこんだ。まさか、キョーコとシオリに今の裸を見られるわけにはいかない。

「ユリカ、様子おかしくない?」
「うん……心配」

 キョーコとシオリはそう言いつつも、風呂に行く準備をし始めた。
 ユリカはその荷解きの音を聞きながら、トイレの便座に座る。スカートを脱ごうと手をかけて、心臓がどくどくと鼓動を早めるのを感じた。
 えいっとスカート下ろして、ユリカは思わず声をあげる。

「うそっ! こんなの、どうしたらいいの~!」

 股間に生えていたのは、男性の性器だった。ユリカはその実物を見たことがなかったが、一目瞭然だった。
 少しの間、ユリカはソレを見つめていたが、ふいに恥ずかしくなって目を反らした。
 代わりにキューに目を移す。

「どうしてくれるのよっ! あんたがこれ、やったんでしょっ!」

 ユリカは返答を期待せず、ただ気持ちを吐き出したくてそう言ったのだった。しかし、その猫のような生物は、流暢な日本語で、こう言ったのだった。

「そうだキュー。君は、今日からふたなりだキュー」

 驚きで瞠目するユリカに、キューは可愛らしい無表情を見せるのだった。
(つづく)






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