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アンステイブルラブガーデン(4)

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 都心部に入っていくと、ごみごみと沢山の人たちが密集していた。
「うわぁ……」
 彩があからさまにイヤそうな顔をした。
「なんだよ、人混みダメなの?」
「気持ち悪いもん」
「何が」
「ぜんぶ」
「なんだそれ」
 交差点の信号が青になり、同時にわらわらと人々が横断歩道を渡る姿――島でそんな光景を見ることはなかった。馴れない彩の気持ちもわかる気もする。
「祐は平気なの」
「逆にすごいと思う」
「意味わかんない」
 彩は唇を少し尖らせた。
 すねちゃってるな、と思いながら俺は目の前の青になった信号を渡った。彩は不機嫌でも、なんだかんだ俺の横にぴったりついてくる。
「手、つなぐか」
「えっ? ……わたしもう〇学生なんだよ」
 彩はつんとした顔をした。まだまだちびのくせに、と言いたくなる。
「そう言えばそうじゃないか。最初はあれでも買いにいこう」
「へ、あれって?」
 キョトンとする彩を連れて、デパートに入る。一階は化粧品売り場で、甘い匂いがプンプンする。彩が蜜に引き寄せられる蝶のようにフラフラと離れていく。
「おーい」
「なんか買ってくれるの?」
「ちげーよ。母さんに言われただろ」
「ちぇっ……ケチ」
 いつから舌打ちなんてするようになったんだ……嘆きながらエスカレーターを昇る。
 彩は階ごとに商品が気になるようで、そわそわと俺のシャツを引っ張った。
「どこまで昇るの?」
「八階」
「そんなに……!」
 素直に驚いた顔だった。かと思うとまたキョロキョロし始める。好奇心に満ち溢れている感じでなんだか微笑ましい。
 そのうちに八階は洋服売り場についた。ようやく彩も何を買うかわかったようで、ぱっと笑顔になった。
 
 彩がごそごそと、カーテンルームの中で動いている。そしてスルスル、と衣擦れの音……服を脱いで、床に落としたところだろう。
 ちょっとからかってやろうと思った。普段すました顔の彩が、困る様子はなかなか見ていて面白い。
「そろそろいいかな」
 カーテンを少し開けて、中の様子を見た。同時に小さな悲鳴が聞こえた。
「ひゃっ」
 下着姿の彩が、ほんのり顔を赤くしていた。見たことのないような恥じらう表情だった。すっかり女の子らしい反応で、兄ながらドキリとした。誤算だった。
 透き通った肌に、水玉模様の下着。それを見た一瞬後には、彩はさっきまで着けていた服で体を隠していた。
「や、やめてよ」
「あぁ……なんかごめん。おどかそうと思って」
「それノゾキ。捕まるよ」
「家族だしいいじゃんか。着るの手伝おうか」
「だめ」
 シャッと勢いよくカーテンが閉じられた。
 冷静に考えて、今したことを後悔した。こういうバカなことをするうちに嫌われていくかもしれない。おまけに彩の反応がやけに生々しくて、自分がただの変態に思えてくる。
「ゆうー」
 落ち込みすぎる前に、カーテンが開いた。
「いい感じかな?」
 制服姿の彩が俺を見上げていた。
 清楚さが漂う灰色のブレザーは、派手な金髪のイメージを和らげている。襟や裾のところが水色で、明るい印象だ。瞳の色とマッチしている。
 ひらひら揺れているのは、水色と青のチェックのプリーツスカート。丈があっていないのか、ほっそりした太ももが少し見えすぎている気がするが、それもまた可愛い。
 特に考えずに、言葉が出ていた。
「やたら似合ってるじゃん」
「えへへ……わたしもそう思ってた」
 彩は得意気にニコリとした。くるりと一回転してみせる様子は自信たっぷりだ。
「でもさ、スカート短すぎないかな。替えてこいよ」
「こんなもんだって、店員さんが言ってたよ」
 彩は指先でスカートの裾をいじりながら言った。
「ほんとかよ」
「うん」
 彩は平然とした顔で俺を見ている。
「まあいいや。ちゃんとパンツ隠せよな」
「ノゾキに言われたくないよ」
「悪かったよ。謝るからでかい声を出すな」
「じゃあおわびに、新しいお洋服買って!」
 彩が瞳をキラキラさせて俺にすりよってきた。買ってあげたいと一瞬思ってしまう力があった。おねだりまでするようになったか……十三才の小娘め。
「これから買い物するものがたくさんあるんだ。仕送りは多くないし、お金は節約しないと後で苦労するからね」
「うう……ケチ」
 彩はぷいっとそっぽを向いて、カーテンの中へ帰っていった。

 考えだすと新しい生活に必要なものはたくさんあって、手元に残る荷物も多くあっという間に紙袋は増え、財布は薄くなった。彩は制服を買ってからすっかり機嫌がよくなっていて、買い物に口を出してきた。彩の部屋に置くものが増えた。
 デパートを出る頃には日が傾き始めていた。
「なんか歩き回って足疲れた」
「しょうがないな、袋持ってやるよ」
「やった……ありがと」
 彩は軽やかな足取りで俺の前を歩いた。それを見ると不満が残るが、大して重くないし、彩は元気そうだし、考えてみれば何も損はない。
「ねぇ、祐」
 かと思うと立ち止まる彩。
「他に持つものあったか?」
「違うよ、もう。こっちきて」
 彩は建物の影の、すみのほうに歩いていった。何をするつもりなんだろう……そんな期待とわずかな不安を感じながら、俺はさらさら揺れる金髪についていった。
「どうしたの」
「えっとね」
 急にもじもじとポーチをいじり出す彩。それを見ながら、俺は袋を地面に置いて突っ立っていた。もしかして、恥ずかしがっている? 
「どうしたの、くねくねして」
「してないよ……」
 彩は顔を赤らめた。こうやっていじめてやるのはけっこう楽しい。
「わかったよ。俺は待ってるからゆっくりどうぞ」
「折角気分よかったのに」
「ごめん、もうからかわないから」
 謝ると、彩はぼそぼそと言った。
「いつ渡そうかな、って思ってたんだけど……」
 ポーチの中から出てきたのは、小さな紙の小包みだった。
「これは?」
「覚えてないの? 島で買ったやつ」
 言われればすぐに思い出した。アクセサリーショップで、彩はこれを買っていたのだ。
「あげる……一応、お揃いだから」
 彩は包みから二つのネックレスを取りだし、片方を俺の手に載せた。
 |碧《あお》い石が飾られた、ちょっとした品だ。だが品そのものより、彩から貰ったことに意味があった。
「ありがとう……嬉しいよ。彩からプレゼントなんて始めてだよね」
 言うと彩はなんでもないよ、と言わんばかりに目をそらした。
「あの……アクセサリーのお店で、おばちゃんにしばらく帰ってこないって言ったら半額にしてもらえて。だから二つ買ってきた」
 本当だろうか……あの店のババアはケチなことで有名だ。まあ彩がそう言うならそれでいいか。
「凄く嬉しいよ、彩」
 早速自分の首にそれを飾った。男でも似合う感じのもので、ちゃんと考えて選んだんだろうなと思った。
「彩もつければ」
「うん」
 彩にもよく似合っていた。同じネックレスをつけたお互いを見合った。
「えへへ」
 彩が照れた様子で笑った。なんだか胸が温かくなった。

》》》

 お日様が傾いてゆく中で、マンションの前に歩いて行くと萌恵ちゃんが待っていた。
 早速困った顔で祐を責めた。
「遅いよ。ずっと待ってて暇だったんだからね」
「ごめん、二人だから買うものが思ったより多くて」
「確かに多い……荷物少し持ってあげようか?」
「いいよ、そんなに重くない」
「それならいいんだけれど……彩ちゃんも親切に甘えすぎちゃダメだからね。祐くんが可哀想でしょ」
「いいじゃん、祐が自分で持つっていったんだもん」
「優しい……あれ、二人ともその首飾りはどうしたの」
「えへへ」
 つい、さっきのことを思い出して頬がゆるんだ。
 初めてのプレゼントは、ドキドキだった。祐が喜んでくれるか不安で胸が苦しかったけど、上手くいった時にそのぶん胸が一杯になって……頬がゆるんじゃう。
 祐もにやにやしていた。
「まあ、兄妹愛だよ」
「ふぅん、仲いいんだねぇ……一人っ子のわたしにはわからないのかな」
 萌恵ちゃんはちょっと不思議そうな顔をした。
「ま、それはともかく。ここがわたしたちの新しい家になるんだよね」
 萌恵ちゃんがオレンジ色の空を仰いだ。祐によるとお手頃価格らしくて、ちょっと古めいているけど、とっても大きなビルがそびえ立っていた。
 やっと家に入れると思うと、急に足が重たくなった気がした。
「わたし疲れた。はやく入ろ」
「そうだな、俺も荷物下ろしたいしはやく行こうぜ」
 祐はマンションに入って、管理人のおじいさんを呼び出した。予約してたからあっという間に手続きは終わった。トランクを受け取った。
「俺たちの住まい、地上十三階だってよ」
 高い! 倒れそうでなんか怖いけど、上からの景色も楽しみ。
「じゃあ、エレベーター乗んないとね」
 一番に乗り込んで十三のボタンを押した。二人が乗り込むとドアが閉まって、するするとわたしたちを載せた箱は昇り始めた。
 突然眩しい光が差し込んできた。わたしはその方向を見て目を見張った。
 外が見えるように、一面がガラス張りになっていた。見えたのは、夕陽に照らされた街の姿。
 街のあらゆるガラス、コンクリートに、橙色が反射していて、それなりにいい光景だった。また胸がときめいた。
 萌恵ちゃんが横で呟いた。
「うわぁ……綺麗だね」
「だね。今は島とここ、どっちがいい、彩?」
「うーん、同じくらい」
 じっと風景を見つめたまま答えた。なんだかここでの生活が楽しみになってきた。
 そのうちに十三階についた。手すりから下を見ると凄く高かった! 地上の車がミニカーだった。落ちそうな気がして慌てて体を引っ込めた。
「わたしは祐くんたちの隣の部屋だから。またあとでね」
 萌恵ちゃんは新しい部屋に入っていった。ドアが閉まると、祐はわたしを見た。
「ここが今日から俺と彩の新しい家だよ」
「うん、楽しみ」
 応えると、祐が鍵を差し込んで、新しい部屋のドアノブを捻る。ガチャリと古っぽい音がして、開いた。
 祐が暗い部屋の電灯をつけて、なかに入った。ついていくと、なんだか嗅ぎなれないにおいがした。変な感じ……たぶん、だんだん慣れると思うけど。
 ちょっと狭い廊下を歩くと脇に部屋があった。
「そうだなぁ、ここを彩の部屋にしようか。俺のはその奥。いい?」
「うん。あー、疲れた」
 何もない部屋の床に、倒れるみたいにごろんと寝そべった。ちょっと埃があって汚いけど、もういいや。やっとゴロゴロできると思うと安心した。
「おい……しょうがないなぁ。とりあえず彩は休んでていいよ」
「ありがと」
 祐がゴトゴト居間に届いてたダンボールをいじってるのをぼーっと見ていると、急に疲れが体にのし掛かってきた。
「ねむ……」
 まぶたが重い……ふぁぁとあくびが出た。目をこすったけど……やっぱり眠い。
 また寝ちゃうかも……まあいっか……祐が起こしてくれるまで寝よっと……。

》》》

 夕陽を見て目をキラキラさせていた彩が、ころりと眠りこけてしまったので、一人で部屋の整理をしなくてはならなくなった。とりあえず居間の大きな段ボールを開け、家から宅配したテーブルやらソファを取り出し配置。一人で今日中に全て片付けるのは無理なので残りは隅に押しやった。
 彩がやけに埃っぽい部屋で寝ていたので、抱き上げて居間のソファの上に寝かせた。以前抱き上げた時よりだいぶ重たくなった感があった。
 萌恵でも呼びに行こうとすると、名前を呼ばれた。
「んん……ゆう……はやく」
 寝言だ。改めて彩の寝顔を観察した。
「夢の中で何やってるんだよ」
 考えていると彩はもそもそ動いてまた寝息をたて始めた。
「んん……」
 小さな胸がゆっくり上下している。
「ったく可愛いなぁ」
 俺は彩を生まれた時から可愛がってきた。
 彩が生まれた時、俺は六歳だった。母さんに会いに行くと胸に金色の髪を持った赤ちゃんが抱かれていた。その存在はあまりにも弱々しくて、俺は子供ながらに優しくしてやろうと思ったものだ。
 彩の金髪青眼……まるで欧米人のような容姿には訳がある。
 巡島にはかつて、ヨーロッパからの宣教師が訪れた。島民を教化し、一つの聖堂を建設した。それが巡聖堂。今でも島の多くの人がキリスト教徒で、俺と彩も一応そうだ。萌恵なんかは父親が牧師のせいでやたらと信心深い。
 いつからか、少しずつ訪れたヨーロッパ人は島の人々と交わり始めた。
 と言っても、白人の血は遺伝的に劣性だ。大抵は普通の日本人が生まれてくる。俺みたいに。だが時々、父母の中にあった劣性の遺伝子同士が変わった容姿の子を作り出す。彩は珍しい子なのだ。
 だが、人形みたいでやたら可愛い見た目の代わりに、彩にも苦労がある。
 金の髪や青い光彩……体中の色が薄いせいで太陽に弱い。今寝ている彩の体も、少しだけ桃色に日焼けしている。夏なんかは下手に外出すると全身まっ赤っ赤になる。日焼けは火傷みたいなものなので、後で痛くなるらしく辛いと言っていた。
 だから彩は昔から家の外に出たがらなかったし、同じく金髪の母さんも気持ちは分かるらしくそれを許していた。そのせいで彩はあまり体力がない。たぶん今日もかなり疲れたんだろう。
「……ゆっくりお休み」
 ちょっと汗ばんで、張り付いた彩の前髪を指で整えた。くすぐったそうに彩が寝返りを打った。
(つづく)
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