ハーレムへの道が瞬く間に遠ざかっていく予感を俺を感じていた。
優美さんは、侑子さんに俺が涼音さんと一緒に事務所に来ていたことを聞き、困惑しきっていた。
「え、ちょっと待って……なんで?」
「だから、直人君、涼音ちゃんと付き合ってるんでしょ? あんなにイチャイチャして、違うなんて言わせないわよ?」
侑子さんはただ、面白おかしい話として、俺をからかっているだけのようだったが、俺からしてみれば七面倒この上なかった。
「だ、だからあれは違いますって……」
「……直人、あとで、詳しく聞かせてね?」
無理やり作ったような笑顔で言われて、俺は唾をごくりと飲みながらこくりと頷いた。
俺のことを、義理の弟で通している侑子さんがいる手前、この場で話は出来ない。ただ、急に雰囲気がギスギスしだし、優美さんはあまり喋らなくなった。
「それじゃあね、直人君と陽菜ちゃん。わたしたち、着替えてくるから」
侑子さんは優雅に手を振り、二人は水着に着替えるため、更衣室に入っていった。コテージの椅子に並んで腰かけた陽菜ちゃんが心配そうな顔で言った。
「お姉ちゃん、怒ってたよ……」
「かなり、マズいよな……涼音さんとまだ続いてること、白状するしかないのか……?」
「あんなに怒ってるお姉ちゃん、見たことないかも。今、本当のことを言ったら、きっと二度と口きいてくれなくなるよ……」
「そんなにか……?」
「うん。絶対あれは、刺激しちゃだめだよ」
「今はタイミングじゃないってことだよな……とりあえず、今は誤魔化すしかないのか?」
どうすればいいんだ、と俺はひたすら頭を捻った。
陽菜ちゃんによると、今は噓をつくしかないみたいだ。そうやって先延ばしにして意味はあるのかと思ったが、このタイミングで白状したらビンタで済まないような気もしてくる。
一度、涼音さんとそういう関係になったのを見つかって、許してもらったのに、まだ涼音さんと続いていることが明るみに出た。二度目は許してもらえないだろうな、とあの時感じたのに、どうしてこうなってしまったのか。
これからどうするのかを考えるほかにない。どうすれば誤魔化せるのだろうか。
ものすごい勢いで頭がフル回転するのが自分でもわかるようだった。優美さんたちが出てくるまでの間、ひたすら考えて、一つ、アイデアが閃いた。
「なんとかするよ……陽菜ちゃん」
「うん……」
俺と涼音さんのことを洗いざらい話すことになれば、陽菜ちゃんまで涼音さんとそういう関係になったことを白状する流れになるかもしれなかった。これは陽菜ちゃんのためでもあった。
しばらくして、二人が更衣室から出てきた。
二人とも、素晴らしくそそる姿だった。ただ見ているだけなのに、股間が反応してしまうくらいだった。優美さんは、明るい色のビキニで、快活な印象。侑子さんは、妖艶な雰囲気の暗めの色のビキニ。
俺は優美さんに声をかけようとしたが、なんと、優美さんは目すら合わせてくれなかった。そのまま、撮影場所であるビーチのほうへと、二人で歩いて行ってしまう。
「ねえ、もしかして直人君と喧嘩でもしてるの?」
「ちょっとね。最近ちょっと、いやなことがあって」
侑子さんがちょっとおかしそうに言うのに、そう返していた。
俺が呆然としていると、侑子さんは俺を振り返って、肩をすくめて見せた。大変ね、と言われている気がした。
それを見て、覚悟を決めた。侑子さんなら、なんとかなるのではないか。これは危険な賭けだったが、たとえ何か犠牲にすることなっても、賭けに勝つことができなければ、この場を乗り切ることはできない気がしていた。
……
「優美、ちょっとお尻大きくなってない?」
「きゃっ! 触らないでよ……もう。侑子はたるんでるんじゃないの?」
「いやん、先輩のお尻、触るなんて度胸あるわね」
「すごーい、全然たるんでない!」
水着姿の二人は、青空の下で、終始仲良さそうにしていた。優美さんは俺とのいざこざなど無かったかのように、完璧な笑顔をカメラの前で見せていた。
撮影が終わり、次の屋内の撮影までの休憩時間になると、優美さんはさっさと陽菜ちゃんだけを連れて、飲み物を買いに行ってしまった。侑子さんは優美さんと一緒に行かず、何をしているかと思えば、誰かと電話をしている。どうやら、夫と電話をしているようだった。
「うん、いい感じよ。グラドルのお友達に久しぶりに会えたの」
楽しそうに話しているところを見ると、夫婦仲は良好なようだった。それを見ていると、目が合って、どうしたの? という風に首を傾げられた。
電話が終わったところで話しかけると、にっこりと笑顔を浮かべた。
「旦那様と電話ですか?」
「そうよ、彼、ちょっと寂しがりやなの。わたしがこの仕事再開するって言った時も、頼むから家にいてくれ、ってうるさくて。押し切って、またグラビア始めちゃったんだけどね? ひっきりなしに電話かけてくるから、相手してあげてたところ」
「こんなに綺麗な奥さんがいたら、独り占めしたくなるのもわかるかも……」
「あら、ありがと。わたしたちも、ちょっと飲み物でも買いに行く?」
自分から誘おうかと思っていたら、侑子さんのほうから誘われてしまった。こんなに仲良くしてもらえるなんてありがたい限りだ。
飲み物を買って、海辺のコテージのテーブルに二人で座った。正面に、憧れの侑子さんがいて、グラスに入れたストローをぷっくりした唇で挟み、吸っているのは不思議な気分だった。
グラビア撮影をしている時から、俺は気になっていることがあった。
侑子さんについての、有名な話。ファンなら誰でも知っているんだけど、侑子さんの胸元、谷間のところには、ほくろがある。それも、普通のビキニを着ていると隠れてしまうような位置に。
結構際どいところにあるそのほくろは、これまでもあまりグラビア作品の中では登場せず、わずか数本の作品のみで、それを確認できる。
(一度生で見てみたい……)
正面にいるビキニ姿の侑子さんの胸元を、ちらちらと盗み見る。左胸の谷間にあるはずのそのほくろは、今日も見えなかった。
「それにしても、直人君。興奮しっぱなしなんじゃない?」
急にそんなことを言われて、何かと思った。
「こういう風に優美に連れられて、何度かグラビアの撮影現場に来てるらしいじゃない。それだけでも可愛い女の子と会えるのに、普段から、あのめちゃくちゃ可愛い優美ちゃんと一緒に暮らしてるんでしょ? うらやましくなってきちゃう」
「ああ……普段から仲良くしてもらって、すっごく嬉しいです」
「うふ、でも今日はあんまり仲良くないみたいね? 何かあったの?」
「それは、まあいろいろと……」
「へぇ、そうなんだ。折角姉弟になれたんだから、仲良くしとかないともったいないわよ」
侑子さんは手のひらにあごを乗せて、すっかりくつろいだ様子で、海を眺めている。ストローを咥えた唇や、少し体を動かすと揺れるおっぱいが目に入ると、気になって仕方なかった。話に全然集中できない。
侑子さんと二人きりになれるだなんて、滅多にない機会だと思って、ついついじろじろと眺めまわしてしまう。こうして二人になった目的を忘れてしまいそうになるくらい、魅力的な女体だった。
「ねえ、直人君、わたしにお願いしたいこと、あるんじゃない?」
「えっ?」
「わたしのファンって、こういうとき、絶対頼み込んでくることがあるの。今も、それを言いたくて悶々としてるんじゃないかなって思って。当ててあげよっか?」
何かと思っていると、侑子さんがふいに、着ているビキニを指でつまんだ。そして、どことなく色っぽい仕草で、乳首が見えてしまうギリギリのライン、きわどい位置にまで胸をはだけた。そしてちょっと首を傾けて、悪戯っぽく俺を上目遣いに見る。
「これ、見たかったんでしょ?」
そこに、ぽつりと小さなほくろがあった。ただの黒い点のはずなのに、やたらエロく感じられた。つい、魅入ってしまう。
見せてもらえたのは一瞬だけで、侑子さんはすぐにビキニを戻し、うふふ、とおかしそうに笑った。
「はい、サービスタイム終了。鼻の下が伸びてるわよ?」
その笑顔を見ていると、ムラムラして仕方なかった。この人の発する色っぽいオーラに触れていると、どうにかなってしまいそうだ。今すぐにでも涼音さんや陽菜ちゃん、優美さんを犯して劣情を発散したくなってしまう。
頭を切り替える。このままでは、優美さんとの関係が壊れてしまう。侑子さんに頼まなければならない。
「実は、他に頼みたいことがあって……!」
「あら、珍しいわね? サービスしてほしいって以外、ファンに頼まれることなんかほとんどないのに。もしかして、また握手とか?」
「違くて。実は、涼音さんのことで……」
「あぁ、涼音ちゃん? 最近仲良くしてる?」
「俺と涼音さんは付き合ってないんです! 少なくとも、優美さんにはそう言ってほしいんです」
「ううん? それはどういうことかしら?」
侑子さんは、不可解そうな顔をしてストローを吸った。
「実は、訳があって……ちょっと、言えないんですけど」
「言えないの? なんでよ、教えてほしいな」
「でも、さすがにこれだけは……」
「なんか、ちょっと面白そう。よし、じゃあこうしよっか。その事情とやらを教えてくれたら、なんでもいうこと聞いてあげるわ」
交渉を続けても、ひたすら侑子さんは同じことを繰り返し言うだけだった。事情を教えてくれたらいうことを聞いてあげる。頑として主張を曲げなかった。
俺は迷った。俺の力では、到底侑子さんを説得していうことを聞かせることは出来ない気がしていた。それなら、条件として提示された、「事情」を話して解決したほうがいいのではないか。それでうまくいくのなら、しょうがないと割り切るべきなのか。
悩みに悩んで、俺は結論を出した。
「話します。俺と涼音さんと……優美さんのことを」
そして俺は話した。今、涼音さんとそういう関係なのはもちろん、実は優美さんとは姉弟関係を超えた、特別な関係なのだと、話してしまった。
陽菜ちゃんのこと等、余計なことは一切言わなかった。ただ、今この場を乗り切るために納得してもらうのに必要なこと、つまり、優美さんと涼音さんと三角関係になっていることを、話した。
侑子さんは、身を乗り出して話を聞いてくれた。目が輝いて、頬が少し紅潮している。
「嘘……え、それ、ホントにホントなの!?」
「だから、今は涼音さんともう別れたことにしてほしいんです。もっとタイミングを窺って、ちゃんと話すつもりなので、優美さんを怒らせないように、今このタイミングだけはなかったことにしてほしいんです」
「すごい! やだ、すっごい面白い話聞いちゃった! 直人君が、うちの事務所で一番かわいいあの二人と二股してるの!? 週刊誌に載ったら大事件になりそう! やっぱりあなた、モテるんじゃない。もう、やらしーい」
「叱らないんですか?」
「わたし、そういうの、大好きなの。うふっ、実はね、わたしもそういうことしたことあるの。わかるわ、たのしいよね? いいわ、協力してあげる」
驚いたことに、侑子さんもこちら側の人間のようだった。確かに、これだけの色気を放ち、これだけの美貌を持っていれば、男を誘うことなんて簡単だろう。
「涼音ちゃんと直人君がそういうんじゃないって、思い直すように、うまく吹き込んでおくわ。任して?」
「あ、ありがとうございます! なんとお礼すればいいのか……」
「お礼? それじゃあ……直人君、今度、ホントに一度、わたしとデートしてくれない?」
突然の誘いで、俺はジュースを吹きそうになった。
どういうことだ? そういえば、以前にもそんなことを言われたが、てっきり冗談かと思っていた。
「優美と涼音ちゃんを惚れさせるだなんて……君に興味が湧いてきちゃったの。うふっ、わたしみたいなおばさんとじゃ、いや?」
俺は何度目かわからないが、ごくりと唾を飲み込んだ。侑子さんの誘いの言葉だけがその原因ではない。
テーブルの下で、俺の足にナマ足を二本とも絡めて、すりすりと誘惑してきていた。それだけで肉棒が反応してしまうくらい、いやらしい撫で方だった。
そんな風にされたら、頷かないわけにはいかなかった。
「実はね、わたしもそういうことしたことあるの」。その一言が、やたら真実味を持って迫ってきた。もしかして、この人は、結婚した今でもそういうことをしてるんじゃないだろうか?
侑子さんが一体どういう人なのか、素性を知らないまま、俺は連絡先を交換してしまった。
「直人君みたいな若い男の子とデートだなんて、ドキドキしちゃう。また連絡するわね? もちろん、優美と涼音ちゃんには、内緒で、ね?」
侑子さんはそう言って小悪魔的な微笑を浮かべ、舌なめずりをするかのように、自分の唇をぺろりと舐めた。
優美さんとのいざこざが解決しても、また別のところで関係がこじれて、これじゃあ結局プラスマイナスゼロだ。
それでも、気持ちは塞がるどころか、むしろ高揚していた。
もしかして、このままうまくいけば、あの妖艶な美人の侑子さんと……。期待が膨れ上がり、にやけてしまいそうになる。いつから俺はこんな人間になったんだと反省しながらも、女の子たちをまた裏切る罪悪感より、あの侑子さんとのピンク色の妄想が、頭の中ではしきりに広がっていくのだった。
(つづく)
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