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アンステイブルラブガーデン(7)

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「彩ちゃん、もたもたしてないで行くよっ電車来ちゃうからっ」
「うん……待って」
 慌てて荷物をまとめて、まーちゃんについていく。
 まーちゃんは沢山の女の子に囲まれてた。きっとみんなの人気者なんだ。
「まーちゃん、今日はなに歌うの?」
「やだなぁ、わたしオンチなのわかってるでしょ」
「ダメだよー、歌わなきゃ。みんな楽しみにしてるんだから。逆に目玉だよね」
「ほんとにやだなぁ」
 そんなこといいながら、まーちゃんは笑ってる。
 話を聞いていると、私以外はみんな小学校からの友達みたいだった。内部生? っていうらしい。
「あかりちゃん、内部生ってなに」
 喋らないでにこにこみんなの話を聞いているあかりちゃん。仲良くなれそう。
「うん? 小学校からエスカレーターしたんだよ」
「うん? ……ああ、そっか。自動的に入学したんだ」
 わたしだって、どういうことかくらいわかった。まーちゃんたち、入学するために勉強してないんだ……ちょっと、ずるいなぁ。

 地下鉄に乗ってカラオケボックスへ。エントランスは女の子でいっぱい。
 初めて来る場所だった。奥を見ると暗くて、なんかゾクゾクする。わからないことだらけで、逆に楽しいかも。
「男子はまだ来てないんだ」
 恋愛好きな感じの沙織ちゃん。
「わたしたちが早く来すぎたの。暇潰しにちょっとクレープ屋さんに……」
「ダメだよ逃げちゃ」
「そんなぁ」
 まーちゃんは眉の端を下げて困った顔をしている。可愛いなと思って見ていると、目があった。
「あっそうだ。彩ちゃんはもしかして初めて?」
「うん。でも楽しみだよ」
「そうこなくっちゃ」
 優しい笑顔を浮かべるまーちゃん。
「わたしが色々教えてあげるから、今日はいっぱいはしゃいでね。あと他のみんなも話しかければ優しくしてくれるから。もっと喋っていいんだよ?」
「えへへ。ありがと」
 お互いのことはまだ全然知らないけど、まーちゃんとはなんだかもうすっかり仲良くなった気分。これから一緒に沢山遊びたいと思った。
 すると、興奮気味の沙織ちゃんが、話に割って入ってくる。
「そうだよ彩ちゃん。小学校の頃の面白いこととかも、教えてあげよっか?」
「うん。しゅん君のこととか?」
「あれ、何で知ってるの!? 何で?」
「さっき話してたじゃん」
「やだなぁ、もう……そういう話は中に入ってからにしよ?」
「そうだね。じゃあ行こうか」
 まーちゃんは先頭に立った。わたしも横に並んだ。後ろは沙織ちゃんとあかりちゃん。あとはわかんない。
 お金を払った後、女の子が十人くらいで、ボックスに押し掛けた。ぎゅうぎゅうかと思ったけど、一番大きいところを借りたみたいで、全然大きさは足りてた。
 まーちゃんは、皆がさっそく歌って騒いでる間も、何でも教えてくれた。リモコンだとか、食べ物の注文の仕方とか。
 そのうち、沙織ちゃんが話しかけてくる。
「まーちゃん、男子来る前に歌っちゃえば?」
「嘘、それでノルマ達成?」
「勿論みんなの前でもう一回歌ってもらうけど」
「やだよぉ」
「いいじゃん、面白いから! じゃあ彩ちゃんも一緒ならいい? 彩ちゃんも、初めてだから、練習必要でしょ?」
 沙織ちゃんがまーちゃんからわたしに飛びうつってくる。お花のいい匂いがした。
「えっと……そうかも」
「よし、じゃあ二人とも前行って」
 マイクを持たされ背中を押されて、壇上へ。みんなが気づいて、わたしたちを見る。顔に血が昇ってくる感じがした。わたし、緊張してる?
「わぁ、まーちゃんもう歌っちゃうの?」
「彩ちゃんも?」
 沙織ちゃんが流行りの曲をかけて、前奏が始まる。
 音楽の授業でしか歌ったことなんかないのに! 心臓がばくばくしだす。手が震えた。息をすって――。
「失礼しまーっす……あれっ」
 バタっと音がして、ドアから男の子たちが入ってくる。わたしたちが歌い出すのと同時だった。
 まーちゃんが変な音程で歌い出した。わたしも緊張して時々音を外したけど、それがわからないくらい変だった。
 みんなは微笑ましそうに見ていた。嫌な笑い方じゃなかった。それはたぶん、まーちゃんの歌い方が可愛いから。いい感じに新しいメロディを作ってる感じで、なんだか面白い。
 まーちゃんに気をとられてる間に曲は終わった。見ると顔を真っ赤にしていた。みんなが温かく拍手する中、まーちゃんだけ本当に恥ずかしそうな顔をしていた。
「まーちゃん、座ろ」
「あ、うん。ごめんね。はー、暑い暑い」
 椅子に戻ると、茹でたみたいな顔を、手で扇いだ。
「入月、今日も最高だったよ」
 男の子が隣に座って話しかけてくる。サッカーやってそうな顔の人。
「ひどいよ、しゅん君」
 まーちゃんが弱く応える。しゅん君ってこの人か。
「あー、しゅん君!」
「ん、沙織じゃん。なんだよ」
「一緒に歌おうよ!」
「は?」
 しゅん君は連れていかれた。
 まーちゃんは相変わらずぼーっとしながら顔を扇いでる。
「二人とも仲良さそうだね」
「あぁ……そうなの。たぶんすぐに付き合いだすよ。沙織ちゃん可愛いから」
「みんな、男の子と付き合ったりするの? わたしの島だと男子と女子、仲悪かった」
「うーん、どうかな。そうでもないけど、でも今日来てる人はそういうの好きな人多いよ。ここに来るのは、遊ぶの好きな人だけだから」
「まーちゃんも?」
「わたしは――」
 いいかけたところで、まーちゃんの肩を叩いた人がいた。顔の整った男の子。
「おい、真子……大丈夫?」
「へ? りょうた君……来てくれたんだ」
 二人とも、嬉しそうな顔をしている。
「気にするなよ。今度二人で練習しよう」
「ありがと」
 すごい仲良さそう。もしかして、ふたりはカップル?
 なんだか急に、取り残された感じがした。みんな、男の子と付き合ってるの?
 別に、ここにいる男の子の中でかっこいい人いないなぁ……祐みたいに頼りがいがある人、いないよね……。
「ちょっと外出ようよ。落ち着こう」
 りょうた君が立ち上がる。
「うん……彩ちゃん、一人でも大丈夫?」
「平気」
「じゃあ、後でね」
 二人は出ていった。見送っていると、男の子が近づいてきた。
「君、さっき歌ってたよね」
 そう言って、ジュースを渡してくる。もしかして、狙われてる? わたしは見た目が目立つから、たぶん男の子にもモテると思う。
「うん」
「けっこう上手かったじゃん。帰国子女なの?」
「違う」
 毎回説明するのが面倒くさいことに、うすうす気が付きはじめた。
「え、じゃあ何? 髪染めてカラコン?」
「そんなわけないじゃん。バカ」
「ひどいな、わっかんないだもん……教えてよ」
「……」
 じゅるじゅるストローを吸いながら無視した。なんかムカムカしてきた。島とここだと、雰囲気がなんとなく違う。みんなチャラい。島のほうがやっぱり好き。

》》》

 結局、祐くんは見つからなかった。ほんと、どこにいるの?
 ホールはごった返していて、とても見つかる気はしなかったけれど、必死に探した。意味はなかった。
 ぶらぶらと街へ出たけど、何も調べておかなかったから、行きたい場所もなくて、途方に暮れた。
 もう、家に帰ろうかな……そう思った矢先、思い出したことがあった。
 バイト。
 仕送りのお金はギリギリ生活できるくらいで、遊び回れる余裕はなかった。祐くんと出かけるためにも、自分で稼ぐ必要がある。
「よし、探そう!」
 神様、どうかわたしに幸運を。
 わたしは大学近くのバイト先を求めて、心機一転、歩き出した。塞ぐ気持ちを、置いていくつもりで。

》》》

 疲れた。
 何人も男の子が話しかけてきて、相手をするのが思ったよりめんどくさかった。みんなの前で歌ったのも体力を使ったみたい。
「お手洗いいってくる」
「あぁ、どうぞ」
 話してた男の子が笑って見送った。
 部屋を出ると、急に静かになった。ふぅ、と息をついて、大して行きたくもないトイレに向かった。
 そろそろ家に帰りたいな……思いながら通路を歩いて行くと、まーちゃんと男の子が店から静かに出ていくのが見えた。
(あれ……二人ともどこ行くの)
 カラオケは満喫した気がしたし、ついていくことにした。
 追いかけるのはわくわくした。なんだか探偵にでもなった気分。
 ばれないように尾行していくと、二人は細い路地に入っていった。まーちゃんは男の子に引っ張られてる感じ。
(なんでそんなところに?)
 不思議に思いつつも、好奇心に突き動かされた。
 そのうちに、人がいなくなって、日の光が当たらなくなる。工事現場にありそうな荷物なんかがたくさんおいてある。
 どきどきは不安に移り変わっていって、追いかけるのをやめようかと思った。
 絶対おかしい。どこへ行くつもり?
 考え始めたころ、二人は立ち止まった。ちょうど打ち捨ててあるほろが邪魔で、何をしているか見えない。でも飛び出したら二人にばれる。そんな距離だった。
「帰ろうかな……」
 かすれるような小声でつぶやいた。でもここまで来て真相を突き止めないのは無駄骨だとも思った。
 もう一つ、引き止めるものがあった。
 遠くてほとんど聞こえないけど、微かに声がする。
「ぁあ……あ……」
 聞きなれない声にびっくりした。
「やっぱり、こんなのだめだよ……」
(何をやってるの?)
 何故か鳥肌が立った。
「やだ……やめてぇ」
 この声……苦しそう? パン、パンって、何か叩きつけているみたいな音がしてる。
(なんかヤバイ気がする)
 帰るんじゃなく逃げようと思った。でも、よく考えればまーちゃんがいじめられてるのに、置いてくのはあんまりだとも感じた。せっかく友達になったのに、見捨てるなんて、できない。
 気が付けば、手に汗がにじんでいる。
 どうしよう。 
「ああっ! だめっ……あぁ……あぁ……」
 そんな声が聞こえて、もう我慢できなくなった。
 助けてあげたい。
 心臓をバクバクさせながら、ほろの向こう側にこっそり体をだした。
 見えてなかったものが見えた。
 息をのんだ。まーちゃんがりょうた君の下で四つん這いになって、お腹掴まれて、お尻に……腰をたたきつけられていて。
 え……?
「うわっ」
 ちかづいたところで男の子が気づいて悲鳴を上げた。
 体が硬直した。
「あ、彩ちゃん……?」
 まーちゃんが制服を半分はだけておしり丸見えの情けない格好のままわたしを見ていた。目が飛び出しそうな感じだった。
 目の前の状況をようやくわかって、顔がかあっとあつくなる。
「わ……わあああっ!」
 今度こそ逃げた。
 わたしだって、わかった。
 最近知ったばかりだけど、これ……。
 エッチしてるんだ。
 え? どうしてこんなところでセックスしてるの? 赤ちゃん作るの? まだ〇学生なのに?
 わかんないけど、見ちゃいけないものだってことはわかった。これはきっと、子供がしちゃいけないこと……だからこっそり、隠れてしてたんだと思う。
 まーちゃんが、そんな悪い子だったなんて!
「……どうして?」
 頭が熱くなってぐるぐるしておかしくなりそうだった。
 周りがぼやけると思ったら、涙が出てきていた。いつの間にか泣いていた。ショックだった。
 まーちゃんがいけないことしてるのも、それを見たわたしは、二度と仲良くなれそうにないことも、悲しくて、仕方がなかった。
 居ても立ってもいられなかった。
 
》》》

 演奏を聞いて、少し距離が縮まった気がする。駅まで送ってあげることになった。
 段々と曇りだしていて、今にも泣き出しそうな空。なんとなく気分が萎えたのと、傘がないのとで、帰宅することに決めた。
 とりあえず、今後連絡を取れるようにさっきメールアドレスを交換した。それだけじゃ足りないので訊いた。
「水無月さん、学部はどこなの?」
「文学部です」
「へえ。そもそも音大とかに入ればよかったんじゃ?」
「そんな、大したことないんです」
「謙遜しすぎじゃあない?」
「……やめてください」
「ごめん。何話してたんだっけ、そうそう文学部。じゃあ校舎は同じだね。俺は経済学部だから」
「そうなんですか」
「この街に慣れてない者同士、一緒に頑張ろうぜ。明日の朝、待ち合わせとかできる?」
「はい」
「じゃあ、校門前で」
「わかりました」
 水無月は少しずつはっきり喋れるようになっている感じがする。俺と一緒にいることに、慣れてくれたのだろう。ちょっと嬉しい。
 ちらっと表情を伺うが、目許がよく見えないせいでよくわからない。
「水無月さん、目、ぱっちりしてるよね」
「そう……ですか」
 水無月が俺のほうに少し顔を傾けると、大きな瞳が見えた。出会った時と同じ、澄んだ瞳。
「勝手なこと言うけど、前髪切ってみれば? そのほうが綺麗かな、なんて」
 水無月は何か考えを巡らせているのか、それともぼんやりしているのか、ただ髪の隙間から俺を見ていた。
「……まあ今日知り合った人にそんなこと言われても困るよね」
 彼女は結局、何も言わずに目を離した。
 本当に静かな女の子だ。
 だがそれゆえに、彼女への興味は尽きなかった。
 至近距離で出会った時、あの繊細な演奏を聞いた時……計り知れないほど大きな印象を、俺に与えていた。
 俺の知っていた女の子のカテゴリーから全く外れた存在……水無月桐華をもっと知りたかった。
 きっと、少しずつ仲良くなっていけば……彼女も心を開いてくれるはず。
 そう思い、顔を上げた時、俺は見慣れた髪色の制服姿が横断歩道を渡っているのを見た。
 鞄を抱えてとぼとぼ歩いているのは……彩? この駅にまで来て、何をやっているんだ。
「おーい、彩」
 目があった。
 とぼとぼと俺のところに歩いてくるのにそれほど時間はかからなかった。
「ゆうぅ……」
 よく見ると、目が充血している。泣いていたのかもしれない。
「どうしたの」
「ううん……なんでもない」
 そう言いつつも、へこんでいるのはわかりすぎるほどだった。
「なんだよ水くさいな」
「だって……」
 彩が押し黙っていると、水無月が小さく訊ねた。
「あの……この子はどなたですか?」
「わっ!」
 やっと水無月に気が付いたのか、彩が少し身を引いた。
「祐、あの人……何?」
「何って、今日知り合った同級生だよ。水無月桐華さん」
「……!」
 彩がはっとした顔で俺を見た。
「祐も彼女作ったの?」
「はぁ!? いきなり何言ってんだよ……まだそんなんじゃなくて」
 あっさりフられそうで、まだ告白する勇気はない。それなのに余計なことを言ってくれる。こわごわと水無月を見ると、不思議そうに俺たちのやりとりを見ている。
「ええと、こいつ俺の妹なんだ」
「妹さんですか……?」
「金髪碧眼だから誰も最初は信じてくれないんだけどね」
 そこに彩が割り込んでくる。
「祐、ここだと、恋人作るのが普通なの?」
「だからなんでそうなるんだよ」
「うう……」
 彩は何か言いたそうだが黙って、何故か不機嫌そうに水無月を見つめていた。
(つづく)
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